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第22回 フォルクスワーゲンTSIエンジン
  フォルクスワーゲングループジャパン鰍ェ1月末に発売した「ゴルフGT(写真1)」に搭載された世界初の直噴ツインチャージャエンジンです(写真2,3)。
 このエンジンは、ゴルフクラスのガソリンエンジンの将来の主力エンジンに位置づけられており、ゴルフGTを皮切りにワゴンタイプのトゥーランにはマイルドバージョンが搭載されました。そのほかのゴルフシリーズにも順次採用が拡大される予定です。

写真1.フォルクスワーゲンゴルフGT TSIの外観。外装には大型エアインテーク採用のフロントバンパー&スポイラーや前後にGTバッジを備えている。



写真2.TSIエンジンのスーパーチャージャ側外観。

写真3.TSIエンジンのターボチャージャ(カバー下)側の外観。


 ●TSIエンジンの特徴

 このエンジンは、高出力と低燃費という相反する要素を高い次元で両立し、従来の常識を打ち破った革新的なガソリンエンジンです。スーパーチャージャ(SC)とターボチャージャ(TC)という二つの過給器を圧縮比の高い筒内直接燃料噴射(以下・直噴)エンジンと組み合わせた結果、2.4Lエンジンに匹敵する最高出力125kW(170PS)/6000rpm、最大トルク240Nm(24.5sm)/1500〜4750rpmの性能と10・15モード燃費14q/Lの低燃費を1.4Lエンジンで達成しています。

 現代社会の最重要課題ともいえる低燃費なエンジンの開発に対してフォルクスワーゲン社が出した答えがエンジンの排気量のダウンサイジングというわけです。その場合、ドライバビリティの面で大排気量エンジンに劣るというのが、これまでの常識でした。その欠点を補うために、エンジン回転が低いときにも効率よく過給ができるSC、そしてエンジン回転が十分に高まったときには排気ガスの圧力を利用して効率よく過給できるTCを組み合わせたツインチャージャシステムを採用しました。そのためSCの弱点である高回転域におけるエンジン駆動力のロスとTCの弱点である低回転時に過給圧が上がらない、いわゆるターボラグを解消できたのです。さらに燃料噴射に直噴技術を採用したので、従来の過給器付きエンジンでは難しかった高圧縮比を実現し(9.7)、わずか1500rpmという低いエンジン回転域から最大トルク240Nmを確保しています。


 ●二つの過給器の連携が決め手

 このエンジンの開発で問題になったのは、二つの過給器の連携でした。そのためエアフィルタを通過した吸気がSCで加圧され、その下流にTCを配置して2段階の過給を行なう構造を採用しています(図1)。

 SCは、写真4のような構造のルーツ式を採用し、電磁クラッチを介してベルトで駆動されます。SCの役割をエンジンの低回転域の過給に限定し、エンジン回転数の5倍という高速で駆動させてアイドリングから高い過給圧(1.8バール)を発生させます。十分に稼働できないTCの働きを補います。その後エンジン回転数が1500rpmになると最大過給圧の約2.5バールに達しますが、このときSCとTCは、ほぼ同じ過給圧(約1.53バール)で稼働しています。エンジン回転数が上昇し2400rpmを超えると、電磁クラッチでSCの作動の切り離しができるようになります(図2)。さらに3500rpm(SCは17000rpm)以上では完全に切り離され、TCによる単独過給で十分なトルクを稼ぎ出します(図3)。

 この間の2400〜3500rpmまでは、SCはエンジンのトルク要求に応じて作動ができる領域になります(図4)。

 これら二つの過給器の連携は、コントロールユニットによって制御され、ドライバーはその切換えを意識することはまったくありません。

図1.TSIシステムの構成図。
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写真4.スーパーチャージャの構造図。
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図2.エンジン高負荷時の過給モード(アイドリング直後)。
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図3.エンジン高回転時の過給モード(エンジン回転数3500rpm以上)。
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図4.エンジン高負荷時の過給モード(エンジン回転数2400〜3500rpm)。
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 ●TSI用に改良されたエンジン本体

 このシステムを採用するために、ベースとなるエンジンには、強度や耐熱性の向上をはじめとする改良が加えられています。シリンダブロックは、高強度の鋳鉄製を採用して最大120バールという燃焼圧力に長時間耐えられるように強化されています。クランクシャフトの鍛造化、ピストンピン径の拡大で強度を向上させているほか、オイル噴射によってピストンのエキゾースト側を冷却するクーリングシステムを採用したり、スカート部にグラファイトコーティングを施すなどフリクションの低減も図っています。

 そのほか、エキゾーストバルブにナトリウム封入式バルブを採用し、バルブシートおよびスプリングの強化も実施しています。さらにインテーク側には、クランク角40度の可変レンジを持つ連続可変バルブタイミング機構を搭載して、いっそうの効率化を図っています(写真5)。

写真5.TSI用ベースエンジンのバルブ機構。
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