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 第31回 三菱ランサーエボリューション]のTC-SST(ツインクラッチ−
       スポーツシフトトランスミッション)
 三菱ランサーエボリューション]は、三菱を代表する高性能4WDセダンで、“誰もが気持ちよく安心して「高い次元の走り」を楽しめる新世代ハイパフォーマンス4WDセダン”を商品コンセプトとして開発されています。多くの新技術が採用されていますが、今回は6速自動マニュアルトランスミッションに二つの自動クラッチを組み合わせることで、“素早い変速による気持ちのよい加速フィーリング”と“高効率な動力伝達機構による優れた燃費性能”を実現したTC−SSTを取り上げます。


 ●TC−SSTのねらい

 これはマニュアルトランスミッションの経済性と楽しさ、オートマチックトランスミッションのイージードライブを両立したものです。図1と写真1にTC−SSTの外観図を示します。従来のマニュアルトランスミッションで変速時に行っていたクラッチペダルの操作を必要とせず、また湿式のツインクラッチを採用することで俊敏にスムースな変速ができ、かつ従来のマニュアルトランスミッションと同等の動力伝達効率によってオートマチックトランスミッションでは達成できない低燃費を実現することを開発のねらいとしています。
写真1.三菱ランサーエボリューション]のTC−SSTのカットモデル。


図1.TC−SSTの外観図。ノーマル、スポーツ、スーパースポーツの3種類のモードが選べ、イージードライブからサーキット走行までをカバーする。
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 ●TC−SSTの構造と変速概念

  このような2ペダルにパドルシフトを組み合わせたシステムは、近年のモータースポーツのカテゴリーでも常識的な装備になっており、その有用性も証明されています。このツインクラッチSSTは、その名のとおり二つのクラッチを制御し、変速ショックの少ない素早い変速動作ができるようになっています。
 以下にシステムの構造と変速概念について、簡単に説明します。
 このトランスミッションの変速機構は、奇数段軸(後退、1速、3速、5速)と偶数段軸(2速、4速、6速)の2系統に分かれ、それぞれ独立したクラッチに結合しており、3速のマニュアルトランスミッションを二つ組み合わせたような構造をしています(図2)。
 発進時は、P→D、N→Dの操作によって、シフトフォーク(1速―後退用)を後退(リバース)ギアから1速ギアに移動させて1速ギアを噛み合わせて変速段側クラッチをつなぐことで1速発進します(図3)。1速走行時は、偶数段側のクラッチを解放したまま2速ギアを、あらかじめ噛み合わせています(図4)。なお偶数段での走行中は、奇数段のギアをあらかじめ噛み合わせています。2速走行時は、シフトマップに応じた変速タイミングでクラッチ(奇数段用)を切り離し、クラッチ(偶数段用)を接続することで2速ギアでの走行となります(図5)。
 クラッチには、湿式多板クラッチ並列に配置し、クラッチ径を大きく同径のものを採用して、422Nmという高出力ターボエンジンの大きなトルクに耐え得るものにしています。
 TC−SSTのバルブボディは、ソレノイドバルブの作動によって、クラッチおよび各変速部の操作に必要な油圧を送ります。ソレノイドバルブは、ECUによって制御され、油圧ポンプはエンジンの動力を使用して油圧を発生させています(図6)。なおオイル性能の低下を防止するためオイルクーラーおよびフィルターを装備しています。

図2.TC−SSTの変速機構構成図。2系統に分かれた変速段軸に、それぞれ独立したクラッチを結合している。
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図3.TC−SSTの発進時の変速ギアの状態。シフトフォークをリバースギアから1速ギアに移動させて1速ギアを噛み合わせ、奇数段側のクラッチをつなぐことで1速発進する。


図4.TC−SSTの1速走行時の変速ギアの状態。偶数段側のクラッチを解放したまま2速ギアをあらかじめ噛み合わせている。


図5.TC−SSTの2速走行時の変速ギアの状態。シフトマップに応じた変速タイミングで奇数段側クラッチを切り離し、偶数段側のクラッチを接続することで2速ギアでの走行になる。


図6.−SSTの油圧機構。ECUで制御され各部へ必要な油圧を送る。


 ●TC−SSTの変速方法

 変速は、ステアリングコラム左右に配置されたパドルシフト(写真2)またはセンターコンソールのシフトレバーによってドライバーが自由に変速操作することができます(写真3、図7)。パドルシフトは、右側がアップシフト、左側がダウンシフトに設定されており、自動変速状態からでもパドルシフトを操作することでマニュアル操作に切り換わり、変速操作できます。
 マニュアル操作でエンジンが過回転となる領域などではトランスミッション保護のため、シフト操作がキャンセルされるとともに警告音でドライバーに通知します。
 なお通常のオートマチック車のDレンジにあたる自動変速とマニュアル選択で走行するマニュアル変速があり、自動変速はシフトレバーをD位置に操作することで可能となります。またシフトレバーの下に設置されたトグルタイプのモード切換えスイッチを操作すると、「ノーマル」、「スポーツ」、「スーパースポーツ」の三つの制御モードを選択できます(写真4)。
 ノーマルモードでは、通常の市街地など一般道を走行するのに適した変速プログラムが与えられ、変速ショックを抑えたシームレスな制御で、従来のオートマチック車のようなイージードライブができます。またマニュアルミッション車同様トルクコンバータを持っていないので燃費効率もよく、通常のトルクコンバータ方式のオートマチック車に比べて10%以上燃費が向上しています。
 スポーツモードは、エンジン回転を高く保ち、変速スピードも速くなります。その結果ワインディング路や坂道などのエンジンブレーキを必要とする場合や制動時にはダウンシフトを積極的に行ってブレーキをアシストします。
 スーパースポーツモードは、さらにエンジン回転を高く保ち、ツインクラッチの変速スピードも最速のモードになります。その結果サーキットなどでドライバーがマニュアル操作で走行する状態に近い変速制御となります。そのためクローズドコースでの使用が推奨されています。
 このようにTC−SSTは、日常のイージードライブからサーキットでの本格的なスポーツ走行までを幅広くカバーする制御が盛り込まれて走りの幅を広げています。

写真2.ステアリングコラム左右に配置されたパドルスイッチ。


写真3.TC−SSTのシフトレバー。これによってもマニュアル操作ができる。


図7.TC−SSTのシフトレバーの動き。オートモードとマニュアルモードを選択できる。


写真4.TC−SSTの走行モード選択用トグルタイプスイッチの位置。