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 第32回 ホンダフィットの1.3ℓ&1.5ℓ新型エンジン
  ホンダのフィットは、独創のセンタータンクレイアウトを採用して優れたパッケージングを実現し、さらに低燃費を追求したスモールカーで、今回のモデルチェンジで2代目となりました(写真1)。搭載エンジンは、前モデルのi-DSIエンジンに変えてi-VTECエンジンを採用しています。排気量は前モデル同様1.3ℓと1.5ℓの2種類を新開発しています(図1、写真2)。

写真1.ホンダフィットはスモールカーの理想を追求して開発された。



図1.新開発されたフィットのi-VTECエンジンの外観図。

写真2.フィットに搭載されたi-VTECエンジンのカットモデル。


 ●新型エンジンの概要

  1.3ℓi-VTECエンジンは、ツインカムエンジンで、従来の低速トルクはそのままに、高回転域での伸びのあるパワーと実用域での燃費を向上させています。4バルブ化による吸排気系の改良やDBW(ドライブバイワイヤ)スロットルの採用によって最高出力100PS(73kW)を発生しています(図2)。また低回転時には吸気バルブの片方を休止させてEGR(排気ガス再循環)の高効率化を図って24.0㎞/ℓ(10・15モード燃費)を達成してクラストップの低燃費を実現しています。
 1.5ℓi-VTECエンジンもツインカムエンジンで、全域にわたって伸びやかでトルクフルな走行性能と低燃費を高次元で両立しています。低速域と高速域で吸気バルブのタイミングとリフト量を切り換え、さらに低・中速域と高速域でのバルブのオーバラップ量を最適化して吸排気効率を徹底して高めることで、最高出力120PS(88kW)を発生しながら9.6㎞/ℓの低燃費を実現しています(図3)。

図2.1.3ℓi-VTECエンジンの性能曲線図。すぐれた低速トルクに加え、高速域での伸びと実用燃費を向上させた。


図3.1.5ℓi-VTECエンジン性能曲線図。全域にわたって伸びやかでトルクフルなパフォーマンスを発揮する。


 ●新型エンジンに採用された主な新技術

  基本的には、1.3ℓエンジンも1.5ℓエンジンも同一のエンジンですから、共通する技術を中心に説明します。

 [出力向上技術]
 クラストップの最高出力を達成するために4バルブ化による吸排気効率を追求し、低速トルク性能も高いレベルで維持するため、数々のチューニングが施されています。
 ①吸気バルブ径の拡大:エンジンの出力向上に貢献する吸気効率を追求するため、4バルブ化とともにバルブ径を28㎜にサイズアップして、バルブ面積を1.3ℓエンジンでは従来の1.3ℓエンジンに比較して50%、1.5ℓエンジンでは従来の1.5ℓエンジンと比較して4%拡大しています。これによってポンピングロスを低減し、最高出力の向上に貢献しています。
 ②冷却水の流れを改善:低速トルクに大きな影響を与えるノッキングを抑制するため、ウォータジャケット内の冷却水の流れを見直しています(図4)。従来のシリンダヘッドとブロックに並列で流水する2系統型から1系統のブロック先行型に変更して、流水を集中させ冷却効果を向上させています。そのため燃焼室の温度上昇が抑えられノッキング特性が大幅に改善されて優れた低速トルクを確保しています。
 ③ピストンヘッドの形状変更:ノッキング抑制に有利な燃焼室形状を追求するためにピストン頭部の縁に厚みを持たせコンパクト化することで、残留ガスが残らないようにするなどノッキングが発生しにくいピストン形状を新開発して低速トルクを向上させています。
 ④トルクアップレゾーネータ付きインテークマニホールドの採用:各気筒で発生した脈動波を合成して共鳴作用を起こさせ、大量の空気吸入を実現するレゾネータチャンバ内蔵タイプのインテークマニホールドを採用しています(図5、6)。従来エンジンでは3500rpm付近にあったトルクカーブの谷間を埋められるように容量と連通管の形状にチューニングを施し、滑らかな走りを達成しています。
 ⑤DBW(ドライブバイワイヤ)の採用:アクセルペダルの踏み込み量を電気信号によってコンピュータに伝え、スロットルバルブをダイレクトに作動させ、アクセルワークに応じてリニアな出力が得られます。
 ⑥高強度クラッキングコンロッド:熱間鍛造の高強度クラッキングコンロッドを採用しています(図7)。高強度の鋼材を使うことで疲労強度が従来のエンジンより約50%向上したため、コンロッド部の断面積を従来のエンジンより17%低減でき、クランクのバランスウエイトを含め、従来エンジンから約1㎏の軽量化を実現しています。またコンロッドが軽量化されることで慣性力が小さくなるので高回転化への対応ができるようになりました。
 ⑦高強度アルミロッカーアーム:1.5ℓエンジンには、従来エンジンより約20%強度を向上させたアルミ材を開発してL字型プライマリロッカーアームに採用しています(図8)。ロッカーアームの強度を確保したことでレイアウトの自由度が増し、VTEC機構による低速域と高速域での切換えができるようになったので出力向上と軽量化に貢献しています。

 [燃費向上技術]
 ①世界初のパターンピストンコーティングの採用:ピストンのスカート回りの形状を変更して表面形状をチューニングすることで、フリクションの低減およびピストンスラップ音の低減を図っています。同時に表面コーティングの模様を付ける世界初のパターンピストンコーティングを採用し、オイル保持性を向上させ、さらなるフリクション低減を実現しています(図9)。そのうえシリンダ内面のより精巧な研磨・加工やクランクシャフトを支えるメインベアリングの油膜を最適保持するため二硫化モリブデンをコーティングするなど、細部までチューニングを行っています。
 ②補機ベルト駆動システムをオートテンショナ化:補機ベルト駆動システムにオートテンショナを採用しています(図10)。これは負荷に応じてテンショナを自動調整するもので、ベルトの張力は安定し、張力の変動もオートテンショナが吸収します。そのため低負荷時のベルト張力が低くなり、エンジンの摩擦抵抗を低減できるので燃費向上につながります。
 ③シリンダヘッド一体型エキゾーストマニホールドと新開発の高耐熱触媒コンバータ:シリンダヘッドと一体化したエキゾーストマニホールドを採用しています(図11)。同時に、その直下へ設置できる高耐熱触媒コンバータを新開発しています。これは触媒を支える周囲のマットに高耐熱素材を採用したもので、ファイバーの変形を抑えることでマット耐熱温度を大幅に高め、触媒の限界使用温度を従来エンジンより40℃向上しました。これにより高速域や高負荷域での燃料消費量低減に貢献し、実用燃費向上に効果を発揮します。
 ④軽量樹脂ヘッドカバー:樹脂製のヘッドカバーを採用したので、従来エンジンのアルミ製ヘッドカバーに対して重量を約1㎏低減して燃費向上に貢献しています。
 ⑤1.3ℓエンジンのバルブ休止VTECとEGRシステム:EGR(排気ガス再循環)システムは、エンジンの状態によって、きめ細かく制御することで燃費を大きく改善できるシステムです。このエンジンでは、バルブ休止VTECを採用して吸気バルブの片方を休止させることでシリンダ内のスワール量を強化してシリンダ内の混合気分布を最適化してEGRの効果を向上させています(図12)。これによって排気ガスの再循環量を増加させても安定した燃焼ができ、燃費性能を向上させています。
 ⑥1.3ℓエンジンに採用された高着火性点火プラグ:このエンジンには、細径電極をダブルにし、上部をイリジウム合金、下部を白金とした高着火性点火プラグを採用しています(図13)。これによって着火性が向上したことでEGR導入時の燃焼が安定するため低燃費を実現しています。

 [環境性能向上技術]
 ①シリンダヘッド一体型エキゾーストマニホールドと新開発の高耐熱触媒コンバータ:これについては燃費向上技術として、すでに説明しました。
 ②高精度の空燃比制御:エアフローセンサを採用するとともに空燃比センサを従来の2個のO2センサからLAF(広域空燃比)センサとO2センサのダブル制御としています(図14)。これによって高精度な制御ができるようになり、常に空燃比を的確にコントロールし、触媒の貴金属を減らしながら高い排気ガス浄化性能を実現しています。



図4.ノッキングを抑えるため冷却水の流れを改善。1系統のブロック先行型に変更している。


図5.大容量チャンバ(レゾネータ)を設け吸気騒音と吸気抵抗を低減している。


図6.インテークマニホールドとEGRパッセージが一体構造で、軽量コンパクト化を実現している。


図7.コンロッドとコンロッドキャップを一体鍛造成型後に分割するクラッキングコンロッド(かち割りコンロッド)を採用し、位置決めノックピンを不要として軽量化と生産性を向上している。


図8.1.5ℓエンジンのVTECロッカーアームの構造。プライマリロッカーアームには高強度アルミ材を採用している。



図9.ピストンのスカート部に二硫化モリブデンコーティングを施しフリクションを低減している。またそのコーティングに窪み形状を作り十分なオイル皮膜を形成して、さらなるフリクションを低減している。


図10.補機ベルト駆動システムをオートテンショナ化してフリクションを低減している。


図11.シリンダヘッドと一体化したエキゾーストマニホールド。メタル触媒の早期活性化と軽量コンパクト化を実現している。


図12.1.3ℓエンジンはエンジン回転速度、車速、エンジン負荷によって吸気バルブの片側のリフトを休止させている。バルブタイミングのイメージ(上)と吸気バルブ作動イメージ(下)。


図13.高着火性点火プラグの構造。細径電極をダブルにし、上部にイリジウム合金を、下部に白金を採用して、EGR作動時の燃料不安定時でも確実な点火ができるようになった。


図14.高精度な空燃比制御を実現。ダブルO2センサからLAFセンサとO2センサの空燃比フィードバック制御に変更している。