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 第35回 トヨタクラウンのハイブリッドシステム
トヨタのクラウンは、日本の高級車をリードする伝統のブランドとして高い評価を得てきました。そのクラウンにも、時代のエコ要望に応えた低公害・低燃費車のクラウンハイブリッドが設定されました。このハイブリッド車は,プラットフォームは先代のものを流用しています(写真1)。


 ●ハイブリッドシステムの概要

クラウンに採用されたハイブリッドシステムは、4.5ℓ、V8エンジンなみの動力性能に2.0ℓエンジンと同等の低燃費、環境に配慮しながらも走りを楽しめるFR(フロントエンジン・リアドライブ)ハイブリッドシステム(THS-Ⅱ)を採用しています(第11回自動車技術トレンド参照)。

 これは基本的にはレクサスGS450hに搭載されたハイブリッドシステムと同じものですが、スイッチ操作だけでモーターのみでの走行を選択でき、早朝・深夜などの走行時の静粛性に配慮し、排出ガス低減に寄与する「EVドライブモード」の設定やエンジンのこもり音を制御音で打ち消して静粛性を一段と向上させる「アクティブノイズコントロール」の採用など新機構の追加、および燃費向上のためのハイブリッド制御も施されているので、復習の意味も込めて紹介してみたい。



 ●ハイブリッドシステム(THS-Ⅱ)の考え方

図1.THS-Ⅱの基本的な考え方。エンジンとモータージェネレータ2(MG2)の駆動力で

 アクセルペダルで要求される駆動力をエンジンおよびMG2(モータージェネレータ№2)の駆動力でまかないます。エンジンは図1の最適燃費線上(あらかじめ設定された燃料消費率がよい高トルク域)で作動します。なおエンジンが効率が悪い低負荷の領域では、エンジンを使わずMG2で走行します。さらにエンジンの効率をよく運転するため、HV(ハイブリッドビークル)バッテリの充電状態(SOC値=State of Charge)を監視しています。SOC低下時はエンジン出力を上げて発電し、逆に高い場合にはエンジン出力を下げて放電してSOCを適切な範囲内に保ちます。主な構造上の特徴を解説しておきます。

 ①アクセル系がリンクレス式:ETCS-i(1弁式電子制御スロットルボデー)を採用することで、アクセルペダルとスロットルボデー間をリンクレスにしています。HVコントロールコンピュータはアクセルペダルセンサや各種センサからの信号によって判定される車両運転状態およびHVバッテリ充電状態に応じた要求駆動力を算出し、ECC(エンジンコントロールコンピュータ)へエンジンパワー(出力)指令信号として送信します。この信号を受けてECCはスロットルバルブ開度を制御します。

 ②クラッチレスとニュートラル:MG2は2段変速式リダクション機構を介して常時機械的につながっているクラッチレス方式を採用しています。NレンジではMG1およびMG2のコイルへの通電を解除することでニュートラル状態を発生させます。

 ③回生ブレーキ:制動エネルギーをMG2で電力に変換して回収する回生ブレーキ機能を採用しています。

 ④HVバッテリ:エンジン停止時のMG2による走行,回生ブレーキでのエネルギー蓄積体としてHVバッテリを採用しています。


 ● THS-Ⅱのシステムの概要

高出力な3.5ℓV6の2GR-FSEエンジン(アスリート用2GR-FEをベースにハイブリッド用にチューニング)とMG2を組み合わせたFR駆動方式ハイブリッドシステムです。ハイブリッドトランスミッションは、主にMG1、MG2およびエンジン動力をタイヤを駆動する動力とMG2を駆動するための電力を発電するMG1に分配する動力分割機構で構成されています。また新開発の高回転・高出力MG2と2段変速式リダクション機構を組み合わせることで高出力化とコンパクト化の両立、発進から最高速までショックを感じさせないスムーズな加速を実現しています(図2,図3)。

 システムの主要な構成部品の機能を簡単に説明しておきます。

 ①2GR-FSEエンジン:ハイブリッド用チューニングを施されたエンジンですが、始動・停止を頻繁に繰り返すハイブリッドの特性に合わせて吸気バルブの開閉タイミングを調整するとともに吸気、圧縮の抵抗を低減してエンジンをスムーズに回転させます(図4)。

 ②モーター:エンジンとは異なり、回り始めた瞬間から最大トルクを発生して力強く滑らかな走り出しを可能にします。パワーコントロールユニットの可変電圧システムによる高電圧(650V)駆動によってモーターの高回転化、高出力化を実現しています。

 ③2段変速式リダクション機構:モーターの回転を車軸に伝える前に減速して大きなトルクを発生します。低速域をカバーするローギアと高速域をカバーするハイギアの二つの減速比を備えることで、低速域の力強い加速とともに中高速域の伸びやかな加速を実現しています。幅広い車速域でモーターのパワーを効率よく活用できるので、発進・加速性能はもちろん燃費の向上にも貢献します。

 ④ジェネレータ:モーターと同じ永久磁石交流同期型を採用して、動力分割機構によって振り分けられるエンジンの動力の一部を使って発電し、モーターやバッテリに電力を供給します。

 ⑤動力分割機構:エンジンからの動力を車軸(出力軸)とジェネレータの発電とに効率よく振り分ける役割を果たします。エンジン、モーター、ジェネレータの3回転運動を遊星歯車(プラネタリギア)で一つにまとめ、この働きによって、それぞれの回転が自在に変化します。クラッチも変速機も使わず、ギア比を無段階に変化させるとともに、アイドルストップ、モーター発進、走行中のエンジン始動やモーター駆動そして効率のよいエネルギー回生などを制御します。

 ⑥パワーコントロールユニット:モーター&ジェネレータ駆動用の電圧を上げる可変電圧システムの昇圧コンバータとバッテリの直流をモーター&ジェネレータ駆動のための交流に変換するインバータを組み合わせたものです。昇圧コンバータは、バッテリからの直流電圧(288V)を最大650Vまで昇圧します。小型化を図ったユニットは、従来の補機用12Vバッテリ格納スペースに搭載しています。

 なお性能は、次のとおりです。

 システムとしての最高出力は254kW(345PS)で、エンジンのみの最高出力は218kW(296PS)/6400rpm、最大トルクは368Nm(37.5㎏m)/4800rpm、モーターの最高出力は147kW(200PS)/5615~13000rpm、最大トルクは275Nm(28.0㎏m)/0~3840rpmです。


図2.THS-Ⅱの構成部品配置図。



図3.THS-Ⅱシステム図。



図4.THS-Ⅱに採用されている3.5ℓ V6の2GR-FSEエンジン横断面図。ハイブリッド用にチューニングされている。






 ● THS-Ⅱのシステム作動

 スマートエントリー&スタートシステムを採用しているので、キーを携帯してパワースイッチを押すだけでTHS-Ⅱが起動します(図5)。このときブレーキを踏んだ状態でなければ起動しません。システムは、エンジンとモーター(MG2)によって駆動力を作り出し、以下の5モードを組み合わせて走行状況に応じて、もっとも効率がよくなるようにHVコントロールコンピュータが制御します。

 ①エンジンの動力で発電を行うモード(図6)。
 ②エンジンを停止しMG2のみで走行するモード(図7)。
 ③エンジン動力を動力分割機構で分割し、機械的動力と電気的動力によって走行するモード(図8)。
 ④③のモードに対してHVバッテリから電力を供給して駆動力をアシストするモード。
 ⑤減速時にMG2によって発電を行い、エネルギー回収を行うモード(図9)。


図5.THS-Ⅱの起動はパワースイッチをブレーキを踏みながら押すだけ。



図6.THS-ⅡのHVバッテリの充電経路。



図7.THS-Ⅱの電気モーターだけで走行する場合の動力経路(発進/EVドライブ時)。



図8.THS-Ⅱのエンジンモーター双方で駆動する場合の動力経路。



図9.THS-Ⅱの減速・制動時のバッテリ回生時の電力経路。


 ● EVドライブモード

深夜、早朝の住宅密集地での低騒音化や屋内駐車場、車庫内での排気ガス低減化を目的として、エンジン作動を制限してMG2だけで数100mから約1㎞程度までの走行ができるEVドライブモードを設定しています(図7参照。スイッチを押すことで設定できます)。この場合、以下にあげる条件をすべて満たさなければEVドライブモードに移行しません。

 ①ハイブリッドシステムが高温(登坂または高速走行後など)でないこと。
 ②ハイブリッドシステムが低温(低外気温時に長時間車両を放置した場合など)でないこと。
 ③エンジン暖機中でないこと(エンジン冷却水温が約40℃以上)。
 ④SOCが約50%以上であること。
 ⑤車速が約40㎞/h以下であること。
 ⑥アクセルペダルの踏み込み量が一定値以下であること。
 ⑦デフロスタがOFFであること。
 ⑧クルーズコントロールシステムが非作動状態であること。

●アクティブノイズコントロール
  エンジンのこもり音低減するために、アクティブノイズコントロールを標準設定し、高い室内静粛性を確保しています。このシステムは、エンジン回転数に同期して発生するこもり音と逆位相の制御音をオーディオ用スピーカーから出力することで、こもり音を低減するものです(図10)。
 このシステムを構成している部品は、左右フロントドアスピーカー、リアトレイウーハー、パワーアンプリファイヤはオーディオシステムと共用で、アクティブノイズコントロールECU、左右フロントこもり音検出マイク、リアエンジンこもり音検出マイク、エンジンコントロールコンピュータそしてメインボデーECUです。
  このシステムの制御は、右フロント/左フロント/リアのエンジンこもり音検出マイクからの信号とエンジンコントロールコンピュータからのエンジン回転数を基に、右フロントドアスピーカー・左フロントドアスピーカー・リアトレイウーハーそれぞれに対応した制御信号を算出し、パワーアンプリファイヤを経由して、各3個のスピーカーへ出力します。このスピーカー類は、エンジンこもり音と逆位相の制御音を出力して、こもり音の低減を図ります。ECUは、メインボデーECUから、いずれかのドアが開いていることを示すカーテシランプスイッチON信号を入力している場合には制御を中止します(図11)。


図10.アクティブノイズコントロールシステムの原理。



図11.アクティブノイズコントロールシステムのシステム制御図。