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 第37回 ニッサンティアナのエクストロニックCVT

ニッサンティアナは、快適な乗り心地と広く静かな室内空間で乗る人すべてに「くつろぎ」を提供する上質でモダンなセダンとして好評を博してきましたが、このほどフルモデルチェンジされました。

写真1.新型ニッサンティアナは全車エクストロニックCVTを搭載している。


 日産自動車では、2050年に2000年比で、新車のCO2排出量を約70%削減するという長期目標をかかげ、これを達成するためのロードマップに基づき技術開発を進めています。短中期では、内燃機関(エンジン)の燃費向上技術を早く普及させることでCO2排出量の削減効果を最大化し、長期的には電動車両の普及を進めるために電動化技術の開発を強化していくことにしています。

 新型ティアナでは、全車にエストロニックCVTを搭載しましたので、その優れた動力伝達効果で低燃費を実現しています。これを機にティアナ全車にXTRONIC CVTというエンブレムを貼付して、ユーザーに分かりやすく伝えることにしています。

 ●エクストロニックCVTの概要

 ティアナに採用されたCVTは、アダプティブシフトコントロール(適合型変速。ASC)付きのエクストロニックCVTで、従来型に比べ動力性能や燃費性能を大幅に向上させるとともに、より高いレベルでのエンジンとの協調制御を追求したことで、ダイレクト感のあるアクセルレスポンスを実現しています。

 またドライバーの運転スタイルや走行環境に応じて動力性能と燃費性能が適切になるように変速タイミングを変化させます。ドライバーの意のままに加速度をコントロールできる、伸びのある気持ちのよい加速を実現しています。以下にVQ25DEエンジンと組み合わされるRE0F10A型エクストロニックCVTを例に説明します。

 ①動力性能について:図1は動力性能を表す最大駆動力線図で、従来のオートマチック(AT)は、アクセル全開時ATは有段変速を行うので駆動力に段差が生じます。一方エクストロニックCVTは、エンジンの高出力域を保ったまま加速することができ、駆動力が滑らかに変化します。そのため図の斜線部の分、駆動力ロスがなくスムーズでショックのない走行ができます。またエンジンとの協調制御および変速線の多面化(発進、燃費定常巡航など)によって変速時の応答性に優れ、スムーズで力強い走りと燃費向上を両立しています(図2)。なおトルクコンバータを使用しているので発進加速性能が向上し、上り坂での坂道発進も容易で、さらにトルクコンバータのクリープで低速運転性が向上し、AT車から乗り換えても違和感が少なくなっています。そのほか、セレクトレバーのスポーツモードスイッチを操作すれば変速比のハイ領域を使用して、常に大きな駆動力を保持した走行もできます。

 ②燃費性能について:エンジンの燃費効率の高い領域を使用しての走行ができるので、実用燃費が向上します(図3)。またトルクコンバータのロックアップ車速を低くして(ロックアップ領域を拡大)、スリップロスの低減やアクセルオフ走行時の燃料カット領域を拡大して燃費を向上させています。

図1エクストロニックCVTの駆動力線図。ATと比較すると,その優位さが分かる。

 

図2.エクストロニックCVTのエンジンとの協調制御図。スムーズで力強い走りと燃費向上を両立。

 

図3.エクストロニックCVTは燃費効率の高いエンジン回転数と負荷領域で使用する。


 ●エクストロニックCVTの構造

 エストロニックCVTは、トルクコンバータとスチールベルト&プーリによる無段変速機構を組み合わせたものです。図4に、エクストロニックCVTのシステム図を示します。機械系と油圧系および電気系からなり、電気系の一部はCAN通信で結ばれています。図5はトルクコンバータを含むエクストロニックCVTの断面図です。

 ①トルクコンバータ(ロックアップ機構付き):従来のAT同様エンジンのトルクを増大し、トランスアクスルに伝達する装置で、対称3要素1段2相型を採用しています。

 ②オイルポンプ:駆動チェーンを介してエンジンによって駆動されるベーン式オイルポンプを採用しています。低回転域でのポンプ吐出量の高効率化と高回転域でのポンプ吐出量の適正化を図っています。オイルポンプからの吐出油はコントロールバルブへと送られ、プライマリおよびセカンダリプーリの作動油、クラッチの作動油および各部潤滑油として使用されます。

 ③前後進切換え部:トルクコンバータとプライマリプーリの間に遊星歯車(プラネタリギア)式の前後進切換え機構を設置しています。トルクコンバータからの動力は、インプットシャフトを介して入力され、湿式多板装置を油圧で作動させ、前後進の切換えを行います(図6)。

 ④ファイナルドライブおよびディファレンシャル:減速ギアは一次減速(アウトプットギア、アイドラギア対)および二次減速(リダクションギア、ファイナルギア対)の2段で構成されており、いずれもヘリカルギアを使用しています。なお潤滑油はトランスアクスル全体を潤滑しているフルードと同一のものを使用しています。

 ⑤ベルト&プーリ:溝幅が軸方向に自由に変化できる一対のプーリとスチールのコマを間断なく連ね、両側に多層のスチールリングでガイドされたスチールベルト(図7)で構成されています(図8)。スチールベルトとプーリの巻付き半径でローの状態(変速比2.349)からオーバードライブの状態(変速比0.394)まで連続的に変化し、この溝幅はプライマリプーリおよびセカンダリプーリの油圧によってコントロールされます(図9)。


図4.エクストロニックCVTのシステム図。


図5.エクストロニックCVTの構造図。トルクコンバータやトランスアクスル部も含む。


図6.エクストロニックCVTの前後進切換え機構の作動。



図9.エクストロニックCVTの運転状態に応じたプーリの変化図。

図7.エクストロニックCVTのスチールベルトの構造。

図8.エクストロニックCVTのプーリ部。プライマリとセカンダリプーリで構成されている。


 ●エクストロニックCVTの変速制御

 ドライバーの意志、車両の状況に合わせた駆動力を得られる変速比を選択するため、車速やアクセル開度などの車両走行状態を検出し、TCM(トランスミッションコントロールモジュール)で最適な変速比の選択と到達するまでの変速のさせ方を決定します。その指示をステップモーターに出力し、プライマリプーリへのライン圧の流出入を制御してプライマリプーリ(可動プーリ側)位置を決めて変速比を制御します(図10)。

 図11にDレンジでの変速比変化を示し、図12にDレンジスポーツモードスイッチON時の変速比変化を、図13にLレンジの変速比変化を示します。また図14は、登降坂制御を示します。これはアクセルペダルを放している状態で下り坂を検知した場合、車両が必要以上に加速しないようにシフトダウンしてエンジンブレーキ力を強くします。また登坂路を検知した場合は変速比のハイ側の変速領域を制限することで再加速時の加速性能を向上させます。

 なお車速またはアクセル開度の関係からドライバーの加速要求度合いやシーンを判断し、発進または走行中からの加速時には回転上昇と車速上昇のリニアリティのある変速特性として加速フィーリングの向上を図っています。また、それよりも弱い加速時にも大きな駆動力を得られる変速マップを選択して燃費と走りの両立を図っています。

 そのほか、高精度にライン圧およびセカンダリ圧制御を行い、フリクションを低減させて燃費の向上を図っています。


図10.エクストロニックCVTの変速制御イメージ図。



図11.エクストロニックCVTのDレンジにおける変速領域。



図12.エクストロニックCVTのDレンジスポーツモードスイッチON時の変速領域。



図13.エクストロニックCVTのLレンジに置ける変速領域。



図14.エクストロニックCVTの登降坂制御のイメージ図。