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 第38回 ワーゲンゴルフ 1.4ℓTSIエンジン

フォルクスワーゲングループジャパン㈱は、「ゴルフ」のエントリーモデル「ゴルフE」に変わる「ゴルフTSIトレンドライン」を設定して発売を開始しました。


 搭載されたエンジンは、日本国内初登場の1.4リッターTSIシングルチャージャーエンジンです。小排気量ながらシリンダーに燃料を直接噴射する直噴FSIテクノロジーにターボチャージャーを組み合わせ、フォルクスワーゲン車としては過去最高の10・15モード燃費15.4㎞/Lと2リッターエンジンなみの最高出力90kW(122PS)/5000rpm、最大トルク200Nm(20.4㎏m)/1500-4000rpmの性能を発揮します(図1)。このエンジンに組み合わされるミッションは、世界初の横置きエンジン用7速DSGです(次回紹介予定)。

図1.新型TSIシングルターボチャージャー付き1.4Lエンジンと他エンジンとのトルク性能比較図。

 ●新TSIエンジンの概要

 燃費とパワーのバランスを追求しながら、より燃費性能を重視したエンジンで、ツインチャージャー(スーパーチャージャーとターボチャージャー)を採用したTSIエンジンと同等の俊敏性を備えながらCO2排出量を大幅に削減して、環境への負荷をこれまで以上に低減しています(新欧州ドライビングサイクルにおける1㎞走行あたりのCO2排出量は139g。写真1.2)。

 エンジンの基本は、16バルブ直列4気筒で1389㏄の排気量、76.5×75.6㎜のボア×ストロークなどに変更はありません。さらにねずみ鋳鉄製のオープンデッキ構造のシリンダブロックをはじめとしてクランクシャフト、コンロッド、油圧テンショナ方式のタイミングチェーンなども共有しています。

ただ燃費の向上を図り、ドライビングダイナミックスを高める効果的な手段として、過給システムには大幅な変更が加えられています。専用に開発されたターボチャージャーによるシングルターボチャージャーシステムが採用され、ターボチャージャーはより小径化され、インタークーラーはエンジンと独立した別の冷却システムを設けて水冷化し、インテークマニホールド内に組み込まれています。このような変更の結果、低回転時のターボラグを解消しています。

写真1.新型TSIエンジン単体図。ターボチャージャー側。

 

写真2.新型TSIエンジン単体図。水冷式インタークーラー側。


 ●新型TSIエンジンの構造と特徴

 新採用されたターボチャージャーは、コンパクトで軽量に設計されています(写真3)。慣性質量の軽減によって反応が極めて俊敏なターボチャージャーは、狭いバルブ挟み角、可変バルブタイミング機構などとともにスムーズでトルクフルなエンジン特性に貢献しています。また排気ガスの流れを最適化した一体型エキゾーストマニホールドと入念に設計されたタービンによって、高回転時でもロスの少ない過給ができるようになっています。吸気側のコンプレッサハウジングには、反応時間が短くスロットル開度の急な変化にも対応する電子制御式ブローオフバルブを一体化しています。なおターボチャージャーの回転数は、最高22万rpmに達し、過給圧は最大で1.8bar(絶対圧)にまで高められます。

 ワーゲン初の水冷式インタークーラーは、このエンジンの革新的なテクノロジーのひとつにあげられます(写真4)。インテークマニホールドと一体化したユニークなインタークーラーによって吸気システムの容積を大幅に削減しています。空冷式ツインチャージャーエンジンの11Lに対して4.8Lまで減少しています。これによって、ターボチャージャーは素早く過給圧を高められるようになり、低回転域の優れたレスポンスを実現しています。

 新エンジンの冷却系統と過給(吸気)系統の状況を写真5に示します。ターボチャージャーによって圧縮され高温となった吸気は、水冷式のインタークーラーによって冷却され、冷却後の吸気は高負荷時でも外気プラス25℃に抑えられます。インタークーラーとターボチャージャーには専用の冷却システムが採用され、吸気から熱を奪ったクーラントは、循環ポンプによって過給システム専用のラジエータに送られます。また従来エンジン同様にシリンダヘッドとシリンダブロックで異なる冷却回路を持つデュアルサーキット方式を採用しています。

 コモンレール式燃料噴射システムは、新世代の燃料ポンプ、新開発の高圧噴射インジェクタなどを採用し、最大噴射圧は110barとなっています。6個のインジェクションジェットを持つマルチホール高圧インジェクタ(図2)は、新エンジンに採用するに当たって噴射形状の最適化を図り、よりクリーンな排出ガスの達成に寄与しています。

 また従来使用されていたインテークポートのタンブルフラップは廃止され、形状が変更されたインテークポートによって、フラップを使用することなく高レベルの渦流(タンブル流)を発生できるようになりました。そのため幅広い回転域で、より迅速で効率的な燃焼を実現するとともに高い経済性とスムーズなエンジン特性を得ています。

さらに新エンジンでは、フリクションロスの低減や重量の軽量化を推進しています。特に軽量化については、各部品の重量をグラム単位で削減し(カムシャフトは1本当たり304g、シリンダヘッドは150g)、トータルで14㎏もの重量削減に成功しています。

写真3.シングルターボチャージャーモジュール。



写真4.ワーゲン初の水冷式インタークーラーシステム図。



写真5.新型TSIエンジンの冷却系統および吸気系統図。



図2.新型TSIエンジンのマルチホールインジェクタの作動(下)。上はツインチャージャー付きエンジンの場合。


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