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 第41回  ホンダレジェンドのポップアップシステム

本田技研工業㈱は、このほどマイナーチェンジした「レジェンド」に衝突時の歩行者の頭部衝撃を低減する「ポップアップシステム」を新採用しました(写真1)。類似のものは他社のクルマに、すでに採用されているものもある)。

写真1.ポップアップフードシステムを採用したホンダレジェンド。ボンネットフードが持ち上がった状態を保っている。


同社では、いち早く歩行者傷害軽減技術の開発に着手しており、クルマの開発と並行して実際の事故実態に即した検証を効果的に行うために歩行者ダミーやリアルワールドを再現できる実験施設が必要と考えて実際に開発および設置しています。1998年に人体の特性に近い歩行者ダミーを、2000年に屋内型全方位衝突実験施設を完成させています。そのため同社のクルマの衝突安全技術は飛躍的に向上してきました。

 ● ポップアップシステムの構成

 ホンダでは、すでに1998年発売の「HR-V」から歩行者軽減ボディを採用し、生命にかかわる衝撃を受けやすい頭部への対応を行ってきました。くわえて2000年発売の「シビック」から傷害の多い脚部への対応も図り、ボンネットフード、ボンネットヒンジ、ワイパー取付け部、フロントフェンダ、バンパーなどに衝撃吸収構造を採用して以来、現在ではほとんどの車種に歩行者傷害軽減ボディを採用しています。

  今回レジェンドに採用された「ポップアップフードシステム」は、フロントバンパー内の中央と左右の計3カ所に設置されたGセンサ(写真2)と車速センサの情報から歩行者との衝突を感知すると、ECU(写真3)がアクチュエータ(写真4)を作動させてボンネットフードの後部を約10㎝持ち上げるものです(図1)。これによってエンジンなどの硬い部品とボンネットフードの間に空間を確保して歩行者の頭部への衝撃を緩和します。

 ポップアップフードシステムの作動の流れは、次のとおりです。

    • フロントバンパーに歩行者の脚部が接触する。
    • Gセンサが衝突を感知し、瞬時にポップアップシステムが作動を開始する。
    • 頭部がボンネットに接触する前にポップアップフードシステムの作動が完了し、ボンネットフードは持ち上がった状態で保持される。
    • 頭部の衝突に対してエンジンルーム内に十分な空間が確保される。


     


     



 ● ポップアップシステムの作動範囲と時間

 ポップアップフードシステムは、エンジンなどがボンネットフードに近接している領域に歩行者の頭部が衝突する可能性に高い「前面衝突時」に作動します。図2のようにフロントバンパー内にGセンサ(3カ所)を配置してフロントバンパーの全域で歩行者との衝突を感知します。
 またさまざまな身長の歩行者を想定し、頭部がボンネットフードに衝突するより早く作動を完了させるように感知から作動完了までの時間を設定しています。
 その作動時間は、歩行者ダミー(POLARⅡ。身長175㎝、体重75㎏)によるポップアップフードシステムの衝突実験(衝突速度40㎞/h)では、図3のようになっています。

 ● ポップアップシステムの特徴

 このポップアップフードシステムの採用によって、頭部傷害値(HIC:Head Injury Criteria)は大幅に低減され、ボンネットフードとエンジンルーム内の硬い部品との空間が取りにくいデザインのクルマ(FFの乗用車など)でも高い歩行者保護性能が確保されました。
 実際にレジェンドでの頭部インパクタ試験(衝突速度32㎞/h)では、図4のように歩行者の頭部にかかる衝撃Gが小さく、頭部傷害値も低減されていることがわかります。

 ●参考:第三世代歩行者ダミー

 ホンダは、1998年にクルマとの衝突事故における歩行者の頭部傷害軽減と車体側の加害部位の特定を目的に衝突時の人体の挙動を再現する歩行者ダミーを世界で初めて開発しました。

 また2000年には、歩行者傷害軽減の取組み範囲を広げ、より人体に近い挙動や傷害を再現するシミュレーション解析とともに、頭部、頚部など8カ所で、内蔵した計測器によって傷害値が計測できる第二世代歩行者ダミー「POLARⅡ」を開発しました。

 さらに今回SUVやミニバンとの歩行者衝突事故に多い腰部や大腿部の傷害提言を目指して第三世代の歩行者ダミー「POLARⅢ」を開発しました(写真5)。これによって、従来の膝部靭帯損傷や脛部骨折に加え、腰部、大腿部の人体忠実度を向上させたので、腰部、大腿部の骨折の評価もできるようになりました。
 新型歩行者ダミーと旧型歩行者ダミーとの構造的な相違は、次のとおりです。

  1. 腰部:骨盤と恥骨結合部にフレキシブル構造を採用して骨盤のたわみ量と荷重を計測して骨折の有無を評価する(図5)。
  2. 膝部:より人体に近い脚部構造を実現するために靭帯のスプリングを小型化して各靭帯の荷重を計測して靭帯損傷の有無を評価する(図6)。
  3. 大腿部/腰部:大腿部にフレキシブルシャフトを採用しながら脛骨のフレキシブルシャフトを延長して各部の曲げモーメントで骨折の有無を評価する(図7)。

 ホンダでは、この第三世代歩行者ダミーを用いた歩行者衝突実験を年内から実施する予定となっています。さらなる歩行者に対する安全ボディの開発が進むことが期待されています。