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 第50回 トヨタプリウスに搭載され進化したハイブリッドシステム

世界初の量産ハイブリッド乗用車であるトヨタプリウスも3代目となり、圧倒的な環境性能と走る楽しさを、より高いレベルで両立させています。形式的には2代目プリウスと同じTHSⅡですが、システムの約90%を新開発しています。世界トップレベルの空力性能などクルマ全体でのエネルギー効率向上との相乗効果で、世界トップの燃費性能38.0㎞/L(10・15モード燃費)とエンジンは1.8Lの排気量ながら2.4Lエンジンなみの動力性能を発揮します(写真1)。



 ●進化したハイブリッドシステムの特徴

 新開発1.8L(2ZR-FXE)ガソリンエンジンと高出力モーター、さらにモーターから大トルクを引き出すリダクションギアを採用しています。高出力モーターとリダクションギア、ジェネレータ、動力分割機構からなるハイブリッド用トランスミッション、さらには高出力ニッケル水素バッテリ、パワーコントロールユニットでシステムは構成されています(図1)。
このハイブリッドシステム(THS-Ⅱ)の特徴は、次のとおりです。

  アクセル系がリンクレス式:電子制御スロットル(ETCS-i)を採用することで、アクセルペダルとスロットルボディ間をリンクレスとしています。パワーマネージメントコントロールコンピュータ(HV機能)は、アクセルペダルや各種センサからの信号によって判定される車両運転状態およびHVバッテリ充電状態に応じた要求駆動力を算出してエンジンコントロールコンピュータへエンジンパワー(出力)指令信号として送信します。この信号を受けてエンジンコントロールコンピュータはスロットルバルブ開度を制御します。
クラッチレスとニュートラル:駆動系は常時機械的につながっているクラッチレス方式で、Nポジションではジェネレータ(MG1)およびモーター(MG2)のコイルへの送電を解除することで、ニュートラル状態を発生させます。
回生ブレーキ:制動エネルギーをモーターで電力に変換して回収する回生ブレーキ機能を採用しています。
HVバッテリ:エンジン停止時のモーターによる走行、回生ブレーキでのエネルギー蓄積体としてHVバッテリを採用しています。

 ●主要ユニットの小型・軽量化を含む進化

 ハイブリッドシステムの高効率化を目指して、各構成ユニットの小型・軽量化を追求したほか、従来の基本構造を継承しながらリダクションギアを採用するなどの進化を遂げています(写真2)。

  ジェネレータ(MG1。発電機):
駆動用のモーターに大きな電 力を供給し、高出力バッテリへの充電も行う発電専用のモーターです。集中巻きによるコイル形状の工夫によって小型・軽量化を達成しています。



  モーター(MG2):高回転化・高出力化を図り、最高出力は従来型の50kWから60kWへと向上。同時にトルクを増幅させ、リダクションギアの採用などで小型・軽量化を達成して優れた燃費性能を実現しています。
  動力分割機構(プラネタリギア):エンジンからの動力を車輪(出力軸)と発電機に分割して伝達していくための装置。またエンジン、モーター、ジェネレータを結合して、それぞれを最適に制御することで、シームレスな加速を生み出す電気式の無段変速機として機能します(写真3)。
  リダクションギア:モーターのトルクを増幅することで大きな駆動力を発生し、パワフルな走りとシームレスな加速をもたらす機構。モーターの小型化と高出力化にも寄与しています。
  高出力HVバッテリ:モーターとジェネレータ(エンジン始動時)に最適な電力を供給する高出力のニッケル水素バッテリを採用しており、小型化と出力アップを図っています。電池パックにはデッドスペースを徹底的に失くすよう冷却システムやメインリレーを最適に配置しています。また冷却系については、吸排気ダクトやファンを小型化するなど、低燃費はもちろん車両の軽量化、ラゲージスペースの拡大にも貢献しています(写真4)。
  パワーコントロールユニット:バッテリの直流電流とモーター、ジェネレータ駆動用の交流電流を最適に制御する機構で、可変電圧システムの昇圧コンバータでシステム電圧を従来型の最大500Vから650Vまでに高めます。さらに冷却系の見直しで大幅な小型・軽量化およびモーターのトルクアップを実現して、システムのさらなる高効率化と高出力化を達成しています(写真5)。

 ●ハイブリッドシステムの作動

 スマートエントリーキー&スタートシステムを採用しているので、キーを携帯しパワースイッチを押すことでハイブリッドシステムが起動します。このシステムは、エンジンとモーター(MG2)によって駆動力を作り出します。以下の5モードを組み合わせて走行し、もっとも効率がよくなるようにパワーマネジメントコントロールコンピュータが制御します(図2)。


  エンジンを停止しモーターのみで走行するモード(停車時・スタート時):停車中はエンジンを停止。アクセルを踏み込むとバッテリの電力で瞬時にモーターを駆動し、レスポンスよく静かにスタートします。
エンジン動力を動力分割機構で分割し、機械的動力と電気的動力で走行するモード(加速時):アクセル全開時はバッテリからも電力を供給してモーターの駆動力をアップしてエンジンと合わせて力強く滑らかに加速します。

②のモードに対してHVバッテリから電力を供給して駆動力をアシストするモード(高速走行時):モーターとエンジンを効率よく使って低燃費で走行します。

減速時にモーターで発電を行いエネルギーの回収を行うモード(減速時):ブレーキを踏んだり、アクセルを緩めた際に発生する制動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収したエネルギーをバッテリに蓄えます。
エンジンの動力で発電を行うモード(バッテリ充電不足時):HVバッテリの充電量が不足すると停車および走行中を問わずエンジンを始動してバッテリを充電します。

 ●用途に応じたハイブリッドシステムのモード選択

 EVドライブモード:深夜や早朝の住宅密集地での低騒音化や屋内駐車場、車庫内での排気ガス低減化を目的に、エンジンの作動を制限しモーターのみで数百mから約1㎞程度までの走行ができるEVドライブモードを設定しています。ただし、以下の条件をすべて満たした場合にEVドライブモードスイッチを押すことでEVドライブモードに移行します。

①ハイブリッドシステムが高温(登坂または高速走行後などの条件時など)でないこと、
②ハイブリッドシステムが低温(低外気温時に長時間車両を放置した場合など)でないこと、
③エンジン暖機中でないこと(エンジン冷却水温が約0℃以上)、
④SOC(充電量)値が約50%以上、
⑤車速が約30~55㎞/h以下(エンジン冷却水温により異なる)、
⑥アクセルペダルの踏み込み量が一定値以下、
⑦デフロスタOFF、
⑧クルーズコントロールシステム非作動時。
走行モード:ドライバーの嗜好に合わせてアクセル開度中間域の駆動力を通常よりも大きく制御することでアクセルレスポンスの向上を図るPWRモードまたはアクセル開度に対する駆動力の発生を穏やかに制御するとともにエアコンを燃費優先の制御とすることで、より低燃費に運転できるようにするECOモードを選択できます。シフトレバー前方にあるPWR MODEスイッチまたはECO MODEスイッチで各走行モードの切換えを行います(写真6)。何も選択していないときは運転のしやすさを最適に制御するノーマルモードとなります(図3)。

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