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 第71回 アルファロメオ・ミトに搭載されたマルチエンジン
イタリアのフィアットグループ(アルファロメオを含む)の新エンジン技術「マルチエア」です。
アルファミト」を皮切りに「フィアット500ツインエア」にも搭載されていますので、フィアットグループの特に小排気量エンジンの主流となると思われます。


写真1 マルチエア技術を採用したエンジンを搭載したアルファロメオ・ミト。

 イタリアのフィアットグループがアルファロメオ・ミト(写真1)を皮切りに搭載を始めた新世代の吸気コントロール技術の「マルチエア」方式を採用したエンジンは、従来のスロットルバルブを使用せずにエンジンの吸気バルブの開閉を制御して、直接吸気量をコントロールするので、燃料消費量の低減はもちろんのこと、最適な燃焼でエミッションレベルも低減しています。
 この技術は、適応性(汎用性)が高いため、ガソリンエンジンはもとより(写真2)、近い将来はディーゼルエンジンにも適用されることになっています。

 ●マルチエア方式を採用したエンジンの特徴

 スロットルバルブを直接利用せず吸気バルブのリフト量と開弁時間を変化させることによってエンジンから伝達されるトルクと出力を制御します。従来型ガソリンエンジンでは、燃焼室内に吸入される空気量をスロットルバルブで調整してエンジンの出力をコントロールするため、特にスロットルバルブが全開ではない状態ではポンピングロスによる効率低下を避けることができません。
 マルチエアエンジンでは、カムシャフトを1本とし、吸気用カムは油圧ポンプを作動させるためにだけ作動させ、吸気バルブを直接開閉しません。吸気バルブは、電子制御式油圧式バルブ機構で作動するためリフト量や開閉時期は油圧を制御することで自由に調整できます(写真3)。なお排気カムは、バルブ直動式です。


 

 ●マルチエア方式の作動原理

 システムの基本作動は、吸気カムで駆動される油圧ポンプで発生した油圧が、チャンバー内のオイルを介して吸気バルブを作動(開く)させます。このチャンバー内の油圧制御は、ノーマルオープン型ソレノイドバルブ(電磁弁)のON/OFF(開閉作動)で油圧を保持したり、解放したりします。
 電磁弁が閉まっているときは、油圧チャンバー内に満たされているオイルが固体のように作用しますので、吸気バルブの開閉タイミングは吸気カムのカム山特性に直接連動しています。一方、電磁弁が開くと内部オイルが油圧チャンバーから流れ出し、オイルチャンバーの作動油圧と吸気バルブの結合が解除されます。そのため吸気バルブは吸気カムと連動せずバルブスプリングの作用で吸気バルブは閉まります。
 またエンジンの作動状態に関係なく吸気バルブが閉まるときの最終段階では、ハイドロリックブレーキと呼ばれるプランジャ部の油圧抵抗が作用してバルブシートに衝撃を与えないようにバルブが閉まるようにしています。
 これらの仕組みで、油圧チャンバーに備えた電磁弁の開閉時間を制御して吸気バルブの最適な開閉タイミングを広範囲に制御できるようになっています。

1. 最高出力向上させるには、電磁弁を常に閉めておいて吸気バルブがもっとも大きく開くように吸気カムと直結状態を形成することで、吸気バルブを長く開いておいて高回転域での最高出力を発揮させます(写真4)。
2. 低回転域でのトルクを向上させるには、カム山の終わり付近で電磁弁を開いて油圧を逃がし、吸気バルブとの連結を解除することで、吸気バルブを通常よりも早く閉めます。その結果、吸気マニホールドへの逆流を防いで、シリンダーへの供給空気量を最大にできます(写真5)。
3. 部分負荷のときには、電磁弁を早めに開けることで、要求されたトルク量に見合うだけの空気量を供給するようにバルブの開度を制限します(写真6)。
4. 吸気カムが作用し始めた後、タイミングを遅らせて電磁弁を閉めることによって吸気バルブを少しだけ開けることができますが、これによりシリンダーへの空気が、より速く流れることからシリンダー内の渦流を効果的に引き起こすことができます。1回の吸気行程中に二つの作用モードを組み合わせることができ、低い回転域で負荷が低い状況でもシリンダー内の渦流形成と燃焼速度を向上させることができます。これを、マルチリフトモードと呼んでいます(写真7)。

 ●マルチエア技術がもたらす効果

 ガソリンエンジンに対してマルチエア技術を採用することによってもたらされる効果は、次のとおりです。
1. 最高出力優先型形状のカム山を採用すると最高出力は約10%向上する。
2. 吸気バルブを早く閉めることで、シリンダーへの充填効率を高める結果、低回転域でのトルクは約15%向上する。
3. 同じ排気量ならば自然吸気(NA)エンジンやターボエンジンにかかわらずポンピングロスを削減できるので燃料消費量とCO2排出量を約10%低減できる。
4. 同等の動力性能を維持しながらダウンサイジングとマルチエア技術を採用することで、従来型エンジンに比べて約25%の燃料消費量を低減できる。
5. 暖機中のバルブ開閉タイミングの最適化や内部EGR効果、排気行程中に吸気バルブを再び開ける効果でエミッションレベルを大幅に改善でき、HCとCOを最大約40%、NOxを最大約60%低減できる。
6. 自然吸気エンジンでは、吸気バルブの上流側で常に大気圧なみの気圧を保ち、ターボチャージャエンジンでは、より高めの気圧を維持する。さらにシリンダーごと、ストローク(行程)ごとに、より速い供給空気の流速を維持することで、エンジンのダイナミックなレスポンスを提供する。

 ●マルチエア技術の展開

 アルファロメオ・ミトに搭載された直列4気筒1.4ℓ16バルブエンジン(NAとノーマル&高性能タイプのターボ仕様)を皮切りに、フィアット500ツインエアに搭載された直列2気筒875㏄8バルブエンジン(NAとターボ)が設定されています。なお本国では、ガソリンと天然ガス(CNG)に対応したバイフューエル仕様も用意されています。今後は、直接吸気制御方式とガソリン直接噴射方式を融合させることでエンジンの過渡特性と燃料消費量が、さらに改善されます。バルブ開閉についても、さらに進歩的な多段式開閉タイミングを導入すればエミッションレベルが、さらに改善されます。また最適な過給圧と吸気バルブ開閉ロジックの組合せで得られる供給空気量を制御する革新的なターボチャージャも開発され、搭載される予定です。