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自動車春闘、
 6年ぶりにベア実施も広がりは不透明


6年ぶりベアも自動車市場には減速懸念も

 自動車メーカー各社が2014年春闘で6年ぶりのベースアップ(ベア)に踏み切った。今年の春闘は4月の消費税率引き上げによる景気減速を避けたい安倍政権が大企業に対しベアを実施するよう要請。異例の事態に企業は戸惑いを見せたが、結局、大企業のほとんどがベアを実施した。自動車ではトヨタ系の大手部品メーカーも追随したが、多くは超円高の修正で利益が大幅に増加する企業で、円安の恩恵を被らいない中小の部品メーカーやディーラーがついていけるかは不透明だ。
 今年の春闘は労働組合にとってまたとない追い風の中でのスタートとなった。消費税率を5%から8%に引き上げることを決めた13年10月、政府が開いた「政労使会議」の第2回会合で安倍晋三首相が企業経営者に賃上げを要請。政府の後押しと消費税引き上げを背景に、労働組合がベアを要求する条件が整ったのが今春闘だった。
 自動車メーカーの春闘は、リーマンショック以降、労働組合がベア要求を見送り、年間一時金だけの交渉に終わっていた。経営側は国際競争の激化を背景に、固定費の増加につながるベアに慎重だったうえ、ベア要求の根拠となるべき物価上昇がほとんどなかったからだ。個人の能力に応じた昇給や年齢による定期昇給は実施するが「全社員の給与が一律に上がるベアの時代ではない」というのが経営側の基本認識だ。従業員の努力には業績に連動した賞与で報いるというスタイルが定着していた。
 そこへ降ってわいた政府による賃上げ要請。安倍政権は東北の復興を加速するための「復興特別法人税」を1年前倒しで廃止することまで決定し、企業負担を軽減する代わりに賃上げを迫った。安倍政権の何が何でも賃上げという動きに企業経営者からは「賃金や賞与は労使で決めることであり政府が介入すべきではない」との戸惑いの声が聞かれたのは当然のことだ。賃金が上がって喜ばない労働者はいないが、賞与と違い賃上げは将来にわたる固定費の増加を意味し、経営の重石となる。
 ただ、自動車メーカーは前年度に比べ20%もの円安によって14年3月期の業績が大幅に改善する。トヨタ自動車が過去最高の営業利益見通しになるなど、総じて大きな恩恵を受けている。リーマンショック後の超円高の際、自動車メーカーは業績悪化に苦しみ、円高是正の必要性を声高に訴えてきた。それだけに「異次元の金融緩和」によってあっとう間に円安に誘導した安倍政権の賃上げ要請を無碍にはできない。
 だが今回のベアの水準はいろいろだ。トヨタ自動車は2700円、日産自動車は3500円、ホンダは2200円と大手3社がリーマンショック前を上回る2000円以上を回答。富士重工業や三菱自動車も2000円相当のベアを回答した。一方、マツダは1100円、ダイハツ工業やスズキは800円にとどまる。スズキやダイハツは、15年4月からの軽自動車税引き上げによって軽自動車の売れ行きが厳しくなると見て、労使交渉の終盤になってもベアゼロの方針を突き通していた。だが、甘利明経済再生担当大臣が「賃上げしない企業には経済産業省からそれなりの対応がある」と驚きの発言。この発言が効いたのか、両社ともベアに踏み切った。

【自動車メーカー春闘状況】

【自動車メーカー春闘状況】
 しかし、後味は良くない。スズキは組合の要求に十分に応えられなかったとして経営陣の報酬カットを組合に申し出るという異例の対応に出た。これは自動車の車体課税見直しで軽自動車だけ税金が上がることに対する鈴木修会長の政府への無言の抗議とも受け取れる。
 部品メーカーやディーラーはもっと厳しい。部品メーカーといってもデンソー、トヨタ紡織、豊田自動織機など企業規模の大きいトヨタグループの部品メーカーは、自動車メーカー並みかそれ以上のベアを回答したが、その他の部品メーカーでは交渉が難航。ホンダ系の有力部品メーカーですらベアゼロの回答を出した企業がある。
 ベアを実施する代わりに賞与は満額割れを容認する組合もある。「大手の賃金が上がると優秀な人材が来てきれなくなる」とし、初任給や30代半ばの社員の賃金改善だけ実施する苦肉の策に出る企業もある。「日本は国際的に見て給与水準が高く、ベースアップの時代ではない」というのが経営者の本音だ。安倍政権は賃上げが中小零細にまであまねく行きわたることが重要だとしているが、自動車産業一つとってみても、その実現は簡単ではなさそうだ。





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