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ホンダが英生産撤退、背景に何が?


ホンダが英生産撤退、背景に何が?

 昨年11月、日産自動車カルロス・ゴーン会長が有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されて以来、自動車関連の報道はルノー・日産一色となっていた。しかし、ゴーン氏逮捕からちょうど3カ月後の2月19日はホンダが主役を奪い取った。英国南部・スウィンドン市での四輪車生産から撤退するとの現地発のニュースが流れたからだ。
 ホンダは同日夕刻、八郷隆弘社長が本社で記者会見し、正式に英国工場の閉鎖を発表した、この発表に最も大きな衝撃を受けたのは当の英国だ。ホンダは1985年に同国に進出し、「アコード」の生産を開始。現在は「シビック」の3ドア車を生産している。現在も3500人を雇用し、地元経済に大きく貢献している。そのホンダが撤退を発表したことを受けて、英国では欧州連合(EU)からの離脱が理由ではないかとの憶測が駆け巡った。
 EU離脱をめぐり混乱が続く英国では、日産自動車が北部・サンダーランド市の工場での次期SUVの生産計画を撤回したり、電気自動車の開発計画を発表しているダイソンが本社をシンガポールに移すと発表するなど、企業がリスク回避の動きを強めている。ホンダは4月に工場の稼働を一時休止することを発表していたが、急転直下の撤退発表に、地元議員が「深く落胆するとともに、驚いている」と声明を発表し、 メイ首相は八郷社長に直接電話し「失望している」と伝えたという。
 誰がどう見ても、EU離脱がひきがねと考えるホンダの英国撤退だが、同社は「EU離脱は考慮しなかった」(八郷社長)と否定する。では何が理由なのか。それはフォルクスワーゲン(VW)のディーゼル排ガス不正問題、いわゆる「ディーゼルゲート事件」が発覚した15年以降、世界で進む電動車シフトにある。
 八郷社長は15年に社長に就任し、翌16年には、30年までに世界の四輪車販売の3分の2を電動車(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車:EV、燃料電池車:FCV)にする方針を発表した。現在、ホンダは寄居工場(埼玉県寄居町)が中心となって、電動車を効率良く生産する技術を構築している。今回の発表では、電動車へのシフトにあたって、「電動化の加速に対応する生産体制を、特に需要ボリュームが見込める地域で構築する」ことを、英国生産終了の理由としている。
 では英国を含む欧州は電動車の需要ボリュームが見込めないのか。ホンダの置かれている状況は実際、厳しい。17年度実績でトヨタが94万台、日産が75万台を販売した欧州で、ホンダは18万台と20万台を割り込んでいる。そもそも欧州はVW、ダイムラー、BMWのジャーマンスリーをはじめ、フランス、イタリアの有力メーカーがひしめきあい、日本メーカーにとって難しい市場だ。米国を主力市場として車を開発してきたホンダは、特に苦戦を強いられている。
 ホンダは欧州販売のボリューム自体が北米や中国、アジアといった他の地域に比べると相対的に低い。英工場に2ラインあるうち1本は停止中で、残り1本で生産しているものの、生産の55%が北米向けという。このため、次期シビックは、「売る場所で造る」ことを基本に米国で生産するという。 「シビックセダン」を生産しているトルコ工場も同時に閉じることを発表した。日EUの経済連携協定の発効で、将来はEU向け輸出関税がゼロになるという計算もあるとみられる。
 欧州生産撤退という思い切った選択をしたホンダだが、そこには自動車メーカーを取り巻く環境の激変がある。世界中で強化される環境規制に加え、自動運転の技術開発競争、シェアリングエコノミーへの対応といった課題が山積している。世界中の自動車メーカーは、経営資源を次世代技術や新たなサービスに振り向ける「選択と集中」を迫られている。この動きはトヨタが国内事業の改革に踏み切ったり、ソフトバンクとの提携によってシェアリングビジネスを本格化するといった動きにも表れている。
 ホンダは人工知能(AI)でソフトバンクと提携しているほか、米ゼネラルモーターズとは燃料電池車での協業を手始めに、18年にはリチウムイオン電池の共同開発や自動運転技術の開発、ライドシェアサービス事業での提携と矢継ぎ早に発表した。一方で、国内では狭山工場(埼玉県狭山市)を閉鎖し、埼玉製作所を寄居工場に集約する。英国、トルコでの生産終了も、これからの自動車産業の激変に対応するための布石と言えそうだ。





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