日野が米当局と和解　三菱ふそうとの経営統合が進展へ

棚上げになっていた日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合協議がようやく前進しそうだ。エンジン認証不正問題をめぐり、日野は制裁金12億ドル（約1800億円）を支払うことで１月16日に米当局と和解した。豪州やカナダとの訴訟も2024年12月までに和解が成立しており、米当局との和解により、経営統合の最大の障害となってきたエンジン不正問題が決着。今後、両社の親会社であるトヨタ自動車、ドイツ・ダイムラートラック（以下ダイムラー）を含めた４社で協議が再開されることになる。

日野は22年３月に中型、大型、小型の各エンジンで排出ガス性能や燃費性能での不正が発覚。これらのエンジンを搭載するトラックやバスの国内出荷停止を余儀なくされ、23年３月期には1177億円の最終赤字に転落した。原因は数値目標達成やスケジュール厳守といった開発現場へのプレッシャーで、親会社のトヨタも長年、経営トップを送り込んできた責任を問われた。

三菱ふそうとの経営統合話が持ち上がったのは、日野が認証不正で揺れている最中の23年５月。生産再開時期も見通せない中で、三菱ふそうの親会社であるダイムラー側からトヨタに提案があったという。ダイムラーは三菱ふそうを中心としたアジア事業の利益率の低さが経営の課題になっており、日野との統合により効率化を図りたかったもよう。日野を持て余していたトヨタとの間でトントン拍子に話が進み、東京で記者会見を開いての発表になった。会見にはダイムラーのマーティン・ダウムCEO（最高経営責任者、当時）、トヨタの佐藤恒治社長も出席。トヨタとダイムラーが共同出資する持ち株会社を設立し、日野と三菱ふそうを傘下に収める形で経営統合すると発表した。

予定が狂ったのは、海外で起きた訴訟だ。カナダや豪州で集団訴訟が提起されたほか、米国では司法省が調査を開始した。当初の計画では、24年3月期中に最終合意し、24年中には経営統合するはずだったが、訴訟や調査の先行きが見通せず、24年３月には経営統合の延期を発表していた。しかし、豪州とカナダでの集団訴訟は24年末までに和解。最大の関門だった米司法省の調査も制裁金を支払うことで終結することになった。日野の小木曽聡社長は１月30日にオンラインで開いた24年4～12月期決算で、「最大の課題だった米当局と和解した。一日でも早く（三菱ふそうと）統合したい」と述べた。

日野は米司法省への制裁金支払いなどで、25年３月期の最終損益は2650億円の赤字になる見通しだ。ただ、売上高は前年同期比8.8％増の１兆6500億円、営業利益は450億円（前年同期は81億円の赤字）と本業は改善する。 25年度前半には中型エンジン「A05C」（HC-SCR）の、同年秋には大型エンジン「E13C」の認証再取得に向けた申請を予定していることも明らかにした。認証が通れば、これらエンジンを搭載する車両の出荷が再開できることになり、三菱ふそうとの経営統合にも弾みがつくとみられる。トヨタは佐藤社長が23年５月の会見で、「われわれが日野を支えるのは正直限界」と述べており、協議が進展することはトヨタにとっても朗報だ。

一方のダイムラー側はCEOが24年10月、ダウム氏からカリン・ラドストローム氏に交代している。新CEOがどれだけ三菱ふそうと日野との統合に熱意を持っているのかは不明だ。ただ、新CEOにはダイムラートラックの利益率を現状の10％程度から、スウェーデンのスカニアやボルボ並みの15％を確実に出せる体制にするという責務を課されている。欧州事業に比べ利益率の低いアジア事業のてこ入れは引き続き課題とみられ、日野・三菱ふそう連合の実現はダイムラーにとっても喫緊の課題と言える。

日野・三菱ふそう連合が実現すると、国内大型車メーカーはいすゞ自動車・UDトラックス連合と日野・三菱ふそう連合の２陣営に分かれることになる。いすゞはUDを21年４月に子会社化。23年４月にトラクターヘッドを共同開発していすゞ「ギガ」，ＵＤ「クオン」に採用したのを手始めに、小型・中型トラック、海外での大型トラックの生産など４件の協業を開始している。25年春にはクオンのMT車をいすゞがUDに供給する。

一方の日野・三菱ふそう連合の協業の具体的な中身が示されるのはこれからだ。東南アジアでの中国勢の台頭など、大型車でも国際競争は一段と激しくなるとみられる。日野とふそうが、いかにスピード感をもって協業の効果を出していけるのか注目される。