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  トヨタの大量リコールが残したもの
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 ユーザーからのクレーム情報を元にトヨタが新型プリウスのブレーキの「空走感」の原因を調べたところ、低速で滑りやすい路面を走行中にブレーキをかけると、ABS(アンチロックブレーキシステム)が作動する際、一瞬ブレーキが抜けるように感じることがあるという。再現性が極めて低い現象で、電池残量など色々な条件が揃わないと現われないという。これは回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わるときにわずかにタイムラグがあるためで、ABSの制御が原因だったと会見で説明した。トヨタは車両開発中、この現象に気づいていなかったと見られ、ユーザーからの情報をもとに原因を調べた。そして1月末の生産分からプログラムを改良していたが、これがリコール隠しではないかとメディアに批判された。
 ブレーキには一瞬たりとも抜けなどあってはならないが、ハイブリッド車には制動時のエネルギー回収は欠かせない。トヨタの場合は回生ブレーキを使い、油圧ブレーキと強調制御し制動エネルギーの回収効率を高めている。回生ブレーキから油圧ブレーキに切り替わるときのタイムラグは、改良前は0.46秒あったという。この時間差は従来のハイブリッド車でも0.4秒ほどあった。新型になってクレームが寄せられるようになったのは、新型プリウスが国内だけで月間2万台を超える販売となり、ハイブリッド車に乗る人が急増したことも一因と考えられる。多くの人が初めてハイブリッド車を運転するようになり、回生ブレーキの独特の感覚を感じる人も多いだろう。
トヨタは回生ブレーキを初代プリウスから採用しており、当初は“かっくんブレーキ”などと呼ばれ、ブレーキ踏み込みの後半から利き方が増すという異様なブレーキ感覚を持ったものだった。だが、これも改良を重ね、ほとんど違和感のないブレーキに仕上がってきている。1月末の生産分からプログラム変更を行ったのも、こうした商品性向上の一貫とトヨタは捉えていたようだ。トヨタが開発段階でこうした現象を把握していれば事前に修正していた可能性もある。販売店を通じ事前に購入者に説明することが出来ていたら、日本ではこれほどの騒動にならなかったのではないか。
 プリウスは米国でもリコールになったが、米国でより問題視されていたのはアクセルペダルの不具合に関する問題だった。そして事態が新たな局面を迎えたのは、米議会がトヨタの役員を公聴会に呼ぶと決めた時からだった。リコールでの公聴会は異例だ。折りしも米国は、日本のエコカー補助金の対象に米国車を入れるよう要請。日本政府はこれをすんなり受け入れ、ゼネラルモーターズ(GM)のあの重量SUV「ハマーH3」までが最大25万円のエコカー補助金を受けられることになった。日米自動車摩擦を彷彿とさせる力技だ。
 米国が自国の景気回復の遅れや、米軍普天間基地問題の苛立ちを日本の代表的企業であるトヨタに向けているのではないか、との観測も聞かれた。トヨタがブランドイメージを落とし、米国事業を失速させることは、トヨタだけでなく日本経済にも痛手だ。「経験の浅い豊田社長が公聴会を無事乗りきれるか」と関係者からは心配の声が聞かれた。
 公聴会は中間選挙を秋に控えた政治家の政治ショーとの見方もあった。豊田社長は陳謝に徹し「急速な事業の拡大に人材育成が追いついていなかった」とまで述べ、トヨタの非を全面的に認めた。米メディアや議員の一部は問題は解決していないと厳しく指摘する一方、豊田社長の姿勢を評価した。
 一方、トヨタの対応の遅さは企業体質や組織に問題があるのではないかとの厳しい指摘もあった。グローバル化を進めながらも、地域軸の経営が出来ていなかったトヨタの体質を鋭く突かれる形になった。
 公聴会を終え報道は沈静化しているが、問題が完全に収束したわけではない。騒動の発端となったドライバーの意図しない加速が、電子制御スロットルの誤作動によるものではないかとの疑いを議会が捨てていない。
トヨタは電子制御スロットルに問題はないと一貫して否定している。同じような現象はトヨタ車に限ったことではなく、他メーカーの車でも意図せぬ急加速の情報はこれまでにもある。電子制御の信頼性は年々高まっており電子制御の不具合による急加速という事例はないというのが自動車メーカーの一般的な見解だ。
 急加速の原因にはアクセルとブレーキの踏み間違いもありえる。だが米国では意図的な捏造と言える急加速の実験がテレビで放送され、今度はプリウスが急加速したとの苦情が増え始めている。中古車価格が落ち損害を被ったとの集団訴訟も持ち上がり、トヨタにはリコール対策費だけでなく、膨大な訴訟費用までのしかかってくると見られている。