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日本の水産資源の現状
 日本は海に囲まれて多種多様の水産資源が豊富だったことから、これまでは日本の漁業と日本人の食卓はともて深い関わりを持っていました。 しかし近年は、自然環境の変化はもとより、経済的・社会的な環境の変化も加わって、日本の漁業と私たちの食生活の関係が薄れつつあります。
 ここで特に取り上げたい経済的・社会的な変化には次の様な点があります。
  ヽこ阿らの安価で大量調達が可能な輸入魚や水産加工品の増加
  国内においては、養殖技術の発達と養殖魚の安定供給の実現
  食の多様化と消費者の魚離れの加速
  い海譴蕕鉾爾水産物価格の低迷、ならびに地域の漁業者の衰退
 日本の食糧自給率の向上が政策的にも叫ばれる中、これまで日本人の食を支えてきた地域の漁業者の衰退は危機的な状況といえます。 地域で古来より漁業を営む人たちは、小さな自営業者です。しかもそのほとんどが、高齢者の人たちであり、後継者不足にも直面しています。
 私たち消費者にとっても、これからの日本の食文化を継承するために、日本の水産物との自らの生活の係わり合い見つめ直す時期が来ているといっても過言ではありません。

 

「雑魚」とは?
 ここからは、日本海に突き出た石川県の能登半島を舞台にして、ここでいう「雑魚」がどういうものかを観察してみましょう。
 とある晩秋の日に、能登の主要道路沿いにある産地直売店を訪ねました。そこでは、さまざまな「雑魚」が写真のようにひとまとめになって売られていました。 さて、この一箱、いったいいくらだったと思いますか?

 

産地直売店で売られている「雑魚」一式
カワハギ、ネジラガレイ(舌平目)、ガンコ、ウミタナゴ、ボラ、カマス、カナガシラ、アジ、イワシ、キンメダイ、タコ、イカ
これらら全部で12種類、大小あわせて25匹


 正解は、なんと「500円ポッキリ」なのです。 もし、スーパーマーケットなどで種類別に買うと、この10倍くらいの値段になるかもしれません。 しかし、「雑魚」として扱われているが故に、こんな値段になってしまうのです。
 ここでいう「雑魚」とは、次の三つのいずれかの理由によって、「規格外商品」として一般市場の流通経路にのらずに余ってしまったものです。

   市場で好まれるサイズがそろっていない
   市場取引に必要な量がそろっていない
   一般の市場でなじみのない種類の魚である

 最近は農産物でも「訳あり野菜」などと称して、やはり一般市場に流通しない規格外品を有効利用する取組みも各地で見られてきています。「雑魚」の場合も「大量流通がしづらいこと」は同じですが、少し野菜の場合とは性質が異なる面があるようです。決して魚単体の品質や価値が劣ることではないため、高級魚でも条件によって雑魚となる可能性もあるのです。
 養殖とは違って自然を相手にした従来からの漁では、特別な漁法以外では多かれ少なかれ捕れる魚の種類が混在してしまいます。特に地方の漁村で多く見られるような、年老いた漁師さんが小さな舟で行う漁については、捕れる種類や量がまとまりにくく、みんな「雑魚」となってしまう可能性さえあるわけです。
 このような雑魚を上手に利用している地方の小さなビジネスを2例ほど紹介します。どちらも、身近な商売ですが、「雑魚」を地域の資源として活かすことによって、高いCS(顧客満足)を得ています。

S民宿(七尾市能登島)
 中能登の七尾湾に浮かぶ能登島にあるS民宿の売りは、すべて地元で捕れた魚介類を使った豪華なコース料理です。たとえその地域の民宿であっても、仕入の手間削減のため、実は大きな公設の市場から一括で仕入れるところも多くあります。しかし、S民宿をはじめとするいくつかの民宿は、使用する海産物を、地元能登島の小さな漁港で水揚げされたものに限定しています。 もちろん「雑魚」を上手に取り入れた料理のレパートリーです。
 先日、実際に訪れた際の夕食を見てください(写真)。5種類の刺身をはじめ、地元の海産物を用いた料理だけで、なんと8種類もありました。
 宿には付近で湧きでている温泉を利用したお風呂もあります。こんな食事が付いた1泊2食を、8,400円の料金で提供しているのです。

 

刺身の盛り合わせ(1.5人前)
この日は8種類の地魚での御造り。雑魚のゴブシャク(ガンコ)やボタンエビが彩りを添えている。地産の新鮮さゆえにハタハタさえも刺身で出される。

 

「天盛り」(1人前)
刺身とは異なる小ぶりな雑魚を8種類取り入れている。一匹ずつだが地物の車エビやカワギス(ハゼ)などがみられる。これでお値段はなんと900円。

 

U居酒屋店(白山市)
 白山市は石川県の加賀地方に位置する金沢に次ぐ主要都市です。この街に、ご年配の夫妻が経営する小さなU居酒屋店があります。 実際には、居酒屋ではなく「刺身屋」という看板を掲げていることからも、いかに新鮮な魚料理を提供しているかを察知することができます。
 ご主人が元漁師であったことからも、魚の目利きにはたいへん長けています。使用している食材の多くは、能登で捕れた「雑魚」を現地から直送してもうことで仕入を行っています。 
もちろん雑魚の仕入であるため、その日によって種類や量が異なります。しかしU居酒屋店では、その雑魚仕入の種類の豊富さを利用して、日々異なる刺身の盛り合わせを提供できているのです。また、規格外である小ぶりの魚を使った「天盛り」は、籠の中にたくさんの種類の小魚が混在していることで、味のバリエーションを楽しめるお薦めメニューなのです。
 このように、新鮮な魚をふんだんに食べられて、お値段は並の居酒屋以下ということが驚きなのです。

  雑魚を利用した夕食のコース料理(2人前)
刺身の舟盛り、メバルの塩焼き、オコゼの揚げ物、タコの煮付け、カワハギの鍋物、サザエの壷焼き、ナマコの酢の物、魚卵の珍味と地元の海産物を用いた料理がこの日は8種類あった
  刺身の舟盛り(2人前)
雑魚のソイを中心に、ガンド(ブリ)、アオリイカ、アカニシ貝、サザエの5種類

 

成功のポイント
 S民宿もU居酒屋店も「雑魚」を利用し、ビジネスとして成功している理由が二つあります。一つは、卓越した技能があることです。魚の目利きができる技能、魚を調理できる技能です。もう一つが顧客の絞り込みです。 
 中でも最も大事なのは、多種多様の雑魚を調理する技術です。特に規格外の小ぶりな雑魚を捌くには、かなりの手間と時間を要することになります。 もしここに、高い人件費の調理人をあてると、いくら仕入が安くてもコスト高になることもありえるでしょう。 個人経営のU居酒屋店においても、調理の提供量とスピードにはやはり限りがあるため、一日の客数をある程度限定することで対応しています。
 次に、S民宿とU居酒屋店に見られる顧客の絞り込み、つまり顧客の差別化の過程を見てみましょう。
 S民宿の近郊には、競争相手として有名な大規模温泉旅館街があり、首都圏からも多くの観光客が訪れます。 しかし、大規模温泉旅館においては、大量の食材の安定調達が必須条件となります。そのため、特別な食事メニューを注文しない限り、旅館が用意した献立には 雑魚はおろか地元の天然魚も使用されることは、ほとんどありません。(お客の多くが、地元産の素材と思いこんでいるのかもしれませんが)
 一般に大型温泉旅館は、施設の豪華さや雰囲気、あるいは接客サービスの質を重視する顧客が利用すると言えるでしょう。味にこだわりを持っている旅人は、このような事情を知り、地元の食材を味わう奥深さを求めてS民宿を利用しており、客層の明確な差別化ができているといえます。
 居酒屋U店についても同様のことが言えます。競合相手としては、同じ地域での比較的安価な居酒屋や寿司屋などの業態の個店とチェーン店が想定されます。これらのお店は、幅広い客層に対応して利益を生み出すために、調理過程はできるだけ合理化する必要があります。
 水産物の調達に関しては、市場を通すものと卸売業者から直接仕入れるが方法があります。天然魚を部分的にメニューに取り入れている店も多くありますが、U居酒屋店のように地元産100%としている店は少ないのが現状です。その中でも、雑魚を使用したメニューはU居酒屋店の独自のものであり、料理(メニュー)での明確な差別化が図られています。 
 U居酒屋店を利用している顧客のほとんどがリピーターで、地元で生まれ育って魚の味にはうるさい中高年客などに多く支持されていて、顧客の絞り込みがなされています。 筆者は主に太平洋側からの県外の人を連れて行くことがありますが、魚の種類と味の違いには誰もが驚いている様子です。

みなさんの事業への応用
 「雑魚」は多くの人には注目されていませんが、上手に利用することにより、商品の差別化いう付加価値と、その商品を食べていただきたい顧客の絞り込みが可能となっています。
 CSという言葉は使い古された感がありますが、両店のビジネスは、このCSに根差したCS理念が見事に実践されている好例ではないでしょうか。CSを推進する場合、客層が幅広いと対応する中身も多様化させなければなりません。それは、大手では可能かもしれませんが、中小企業ではよほどの努力なくして実現は難しいところです。それを、可能にしたのが、地域の資源を生かした顧客の絞り込みです。この点が参考になるのではないでしょうか。
 今回紹介した民宿や居酒屋での利用の他にも、さらに多くの雑魚を調達して、魚肉練製品などの水産加工品を製造・販売しようとする新たなビジネスも生まれてきています。
 皆さんの地域にも、このような「隠れた地域資源」はありませんか。 もしそれを上手に利用することができれば、商品の明確な差別化を実現できる可能性があります。

 

  国際マネジネント診断協会・アイエル経営診断事務所  
代表  板 賀 伸 行
経営コンサルタント(中小企業診断士)
ISO/QMS 主任審査員

過去に大手自動車会社において海外各国の自動車開発・生産プロジェクトを担当。その後、コンサルティング会社等を経てアイエル経営診断事務所を設立、中小企業の経営支援を開始。国や地域の中小企業支援センターのアドバイザーも務める。
経営資源の少ない小規模事業者のビジョン実現をサポートできる今の仕事に生き甲斐を感じています!
趣味はアウトドア系なら何でも関心があり、毎年新しいチャレンジ(冒険?)をしています!