【社会保険は強制加入】
人を雇用して会社経営を行う以上、労災保険、雇用保険、健康保険(医療保険ともいう)および厚生年金保険は、強制加入されるものです。事業主の判断や労働者個人の意思によって、加入する・しないを決めることは認められておりません。
なぜ、強制加入かといえば、病気、ケガ、身体の障害、死亡、老齢、失業などが起きたときに、保険制度の加入者やその家族に対して、治療にかかった医療費や収入の補填・保障などの保険給付を行い、生活を保障する制度だからです。
したがって、たとえ試用期間中の者であっても適用除外をすることはできませんし、採用したら事業主は、速やかに被保険者の届出をしなければなりません。
たとえば、「当社では、採用した社員の社会保険加入は、3ヵ月後の試用期間終了後にしています。」などということは、許されることではありません。
上記の各保険をまとめて「社会保険」と呼び、次のように区分されています。
【各保険の概要】
1. 労災保険(労働者災害補償保険)
労働者を使用するすべての事業所は、労災保険に加入しなければなりません。そこに働く労働者は、パートタイマーやアルバイトなどであっても、保険の諸給付を受けることができます。
保険料は会社が全額を負担しますが、労災保険に加入していれば、労働者が業務災害や通勤災害を被ったときに保険から補償が行われることになり、事業主は、労働基準法で定められた補償を原則として行わなくてもよいことになります。(労基法84条1項)
労災保険料率は、労働者に支払う賃金の1,000分の4.5〜118の範囲で業種別に定められています。ちなみに、自動車関連業種の労災保険料率は次の通り。
・自動車整備業 1,000分の6
・新車・中古車販売業 1,000分の5
2. 雇用保険
雇用保険は、すべての産業を適用対象としていますので、1人でも労働者を雇用した場合、事業主は雇用保険に加入しなければなりません。ただし、農林水産業のうち労働者5人未満の個人経営の事業は強制適用から除かれます。
また、適用事業所に雇用されている労働者は、原則としてすべて被保険者となり、例外として4ヶ月以内の期間を定めて雇用される季節労働者、家事使用人等は除かれます。パートタイマーについては、―20時間以上の所定労働時間で、1年以上の雇用が見込まれる場合、被保険者となります。
保険料は、労働者の賃金の額に応じた一定の金額を会社と労働者が負担します。
(例)一般の事業 15/1000( 使 9/1000 労 6/1000 )(平成20年10月現在)
なお、平成20年10月30日に発表された政府の追加景気対策の一環として、平成21年度から雇用保険料の引き下げが予定されております。
3. 健康保険
従来の政府管掌健康保険は、平成20年10月に国(社会保険庁)から切り離した保険者として全国健康保険協会が設立され、都道府県を支部とした「協会けんぽ」に変わりました。
自動車整備業界では、健康保険組合を設立している都道府県もあり、この場合、その地域の事業所は自社の所在地域の組合に加入することができます。組合健保に加入していない事業所は、協会けんぽに加入することになります。
すべての法人の事業所および常時5人以上の従業員を雇用する適用業種の個人事業所(これらを、強制適用事業所という)は、必ずこの保険に加入しなければなりません。なお、従業員4人以下の自動車整備業などサービス業の個人事業所(これらを、任意包括適用事業所という)は、健康保険加入が義務付けられておりませんので、各人が個別に国民健康保険に加入しているのが現状です。しかし、これらの事業所でも事業主が従業員の1/2以上の同意を得て、社会保険事務所に申請し認可を受ければ加入することができます。
パートタイマーについては、労働日数や労働時間が一般の被保険者のおおむね3/4以上の場合には適用され被保険者として健康保険に加入することになります。
保険料は、労働者の賃金の額に応じた一定の金額を会社と労働者が折半で負担します。なお、協会けんぽの保険料率は、政府管掌健康保険の保険料率(8.2%)が、そのまま適用されます。しかし、平成20年10月以降1年以内に都道府県別の保険料率が、新たに設定されることになっております。
(協会けんぽ) 標準報酬月額 × 82/1000 × 1/2 (賞与も同率)
介護保険料 標準報酬月額 × 11.3/1000 × 1/2 (賞与も同率)
(ただし、介護保険料を支払うのは40歳以上65歳未満) (平成20年10月現在)
また、いままでの老人保険制度と退職者医療制度が見直され、平成20年4月から、75歳以上の人と65歳から74歳で一定の障害のある人を対象とした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が新たに設立されました。この制度の被保険者となる人は、いままで加入していた医療保険制度の被保険者および被扶養者ではなくなります。
4. 厚生年金保険
厚生年金保険は、会社、工場、商店などで働く民間労働者が加入する年金制度で、労働者の老後の生活を保障することが主な目的ですが、ケガや病気で働けなくなった人たちの生活や、労働者が死亡した場合の遺族の生活を保障する役割も果たしています。
自動車整備業界では、各都道府県もしくはブロック単位等で業界における厚生年金基金が設立されております。基金に加入するとその事業所に使用される被保険者はすべてその基金の加入員となります。基金の加入員は、同時に厚生年金保険の被保険者でもあり、厚生年金保険と基金の両方に加入していることになります。
適用の範囲は、健康保険適用条件の場合とほぼ同じです。臨時に雇用されている場合を除き、全員が被保険者となります。20歳以上60歳未満でこの保険に加入できない人(個人事業本人など)は、国民年金保険に加入することになっています。
高齢社会を迎え、現役世代の保険料負担はますます大きくなっており、その過大な負担を避ける為に、上昇する保険料水準に上限を定めて固定化しています。そして、年金給付の水準は、年金を支える社会全体の所得や賃金の変動に応じて、自動的に調整が行われます。
厚生年金の保険料は、労働者の賃金の額に応じた一定の金額を会社と労働者が折半で負担します。平成20年9月現在の保険料率は、15.35%です。この保険料率は、平成16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、平成17年度からは毎年9月に保険料率の改定が行われております。そして、平成29年9月以降は、18.30%に固定されます。
(一般の被保険者の場合)
標準報酬月額 × 153.5/1000 × 1/2 (賞与も同率)
(平成20年9月から平成21年8月まで)
【手続きは速やかに】
社会保険の手続きにも期限があります。
従業員を採用したときは、資格取得日から5日以内に、健康保険については社会保険事務所または健康保険組合で、厚生年金保険については社会保険事務所または厚生年金基金で、雇用保険は翌月10日までにハローワークで、それぞれ加入の手続きを行わなければなりません。従業員が退職したときなども資格喪失などの手続きがあります。
(介護保険への加入は、40歳の時点で自動加入となります。) |