【1年単位の変形労働時間制とは】
3月は車検入庫台数が普通の月などと比べて倍になるなど、年間で一番忙しい月です。こうした月に普段と同じ所定内労働時間ですと、休日出勤や割増賃金など労使双方にとって何かと不都合なことが出てきます。こうした不都合を和らげる働き方の一つが「1年単位の変形労働時間制」です。
1年単位の変形労働時間制は、業務に繁閑のある事業所において、繁忙期には比較的長い労働時間を設定し、閑散期には短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的としています。
この制度は、1年以内の1ヶ月を超えた一定の期間(3ヶ月、6ヶ月、1年間など)を平均して、1週間当りの労働時間が40時間を超えないことを条件として、業務の繁閑に合わせた休日の設定や、特定の日や週について、1日8時間及び週40時間を超えて労働させることができる制度です。
従って、1年のうち年末・年度末や一定の季節が忙しいなど、原則法定労働時間になじまない業種や企業においては、変形労働時間制の中で一番よく利用されておりますので、この制度の内容や手続き等のポイントを紹介します。
制度の適用例として、年間休日を105日(日曜52日、土曜26日、祝日13日、年末年始7日、お盆7日)とした場合の年間所定労働日は260日(365日−105日)になります。この時の年間所定労働時間は2,080時間(260日×8時間(所定労働時間))となり、1週当たり労働時間が39時間54分(2,080時間÷365日×7)となります。以上のように、対象期間を平均して労働時間であるアンダーラインの部分が、1週間40時間以内にならなければなりません。
【導入のポイント】
本制度の導入に当たっては、下記事項を順守して運用する必要があります。
1 労使協定の締結
この制度を採用する場合には、労使協定で次の5項目について協定を締結する必要があります。
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対象労働者の範囲
法令においては対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲を定めることが必要です。
対象期間及び起算日
対象期間は、1ヶ月を超え1年以内の期間に限られます。また、対象期間を期間で定める場合は、起算日が必要となります。
特定期間
対象期間中の特に繁忙な期間を特定期間として定めることができますが、対象期間のうち相当部分を特定期間とすることは法の趣旨に反して認められません。
労働日及び労働日ごとの労働時間
対象期間を平均して1週間当りの労働時間が、40時間を超えないように対象期間内の各日、各週の所定労働時間を定めることが必要です。
労使協定の有効期間
有効期間は、対象期間より長い期間とする必要がありますが、1年単位の変形労働時間制を適切に運用するためには対象期間と同じ1年程度とすることが望ましいとされております。 |
2 労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度
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労働日数の限度
対象期間における労働日数の限度は、1年間に280日です。対象期間が3ヶ月を超え1年未満である場合は、次の式により計算した日数(端数切り捨て)です。
〈計算式〉 280日×対象期間の暦日数÷365日(1年365日の場合)
ただし、前年度において1年単位の変形労働時間制を協定している場合(旧協定) で、旧協定の1日または1週間の労働時間よりも新協定の労働時間を長く定め、及び、1日9時間または1週48時間を超えることとしたときは、280日または旧協定の労働日数から1日を減じた日数のうちいずれか少ない日数としなければなりません。 |
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1日及び1週間の労働時間の限度
1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間です。(隔日勤務のタクシー運転者の1日の労働時間の限度は16時間です。)
ただし、対象期間が3ヶ月を超える場合、この限度時間を設定できる範囲には、次のような制限があります。
・労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは、3週以下
・対象期間を3ヶ月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超えることができる週は、週の初日で数えて3回以下 |
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対象期間及び特定期間における連続労働日数の限度
対象期間における連続して労働させることができる日数の限度は、6日までです。
特定期間における連続して労働させることができる日数の限度は、1週間に1日の休日が確保できる日数です。 |
3 週平均40時間達成のための1日の所定労働時間と年間休日日数の関係
1日の所定労働時間を一定とした場合、1週平均40時間をクリアするための1日の所定労働時間と最少年間休日日数及び年間労働日の関係は次のようになります。
(1日の所定労働時間) |
(年間休日) |
(年間労働日) |
8時間00分
7時間55分
7時間50分
7時間45分
7時間40分
7時間35分
7時間30分 |
105〔105〕
102〔102〕
99〔100〕
96〔97〕
93〔94〕
90〔91〕
87〔88〕 |
260〔261〕
263〔264〕
266〔266〕
269〔269〕
272〔272〕
275〔275〕
278〔278〕 |
※〔 〕内は、1年366日の年 |
4 労働基準監督署長への届出
1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合は、一定の様式に必要事項を記載し所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
5 割増賃金の支払い
労働時間が法定労働時間を超えた場合には、その超えた時間(時間外労働)について割増賃金を支払うことが必要です。1年単位の変形労働時間制の場合の時間外労働は、「1日」、「1週間」及び「対象期間(最長1年)」の三つについて就業規則等で定めた所定労働時間と実際の労働時間と比べて算定することになりますが、基本的には次の時間については時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要になります。
(1日の法定時間外労働は)
1日の所定労働時間が8時間以内の日については、8時間を超える部分の時間。
1日の所定労働時間が8時間を超える日については、その所定労働時間を超える部分の時間。
また、途中入社・途中退職者等に対しては、対象期間中に所定労働時間として勤務した時間を平均して週40時間を超える場合は、その超過分は割増賃金の支払いが生じます。
例:
A |
「本人の雇用されていた期間」の総実働時間(休憩時間は除く)を積算します。
(注)総実働時間起算は次によります。
・中途採用者の総実働時間=採用日から対象期間の終了日までの期間
・中途退職者の総実働時間=対象期間の初日から退職日までの期間 |
B |
「本人の雇用されていた期間」の法定労働時間の総枠を計算する。
・計算式…本人が雇用されていた期間の歴日数÷7×40時間 |
C |
時間外労働として割増賃金を支払うべき時間数はC=A−B
例えば、5月1日〜10月31日までの6ヵ月間(184日)勤務したGさんについて、そ
の間の総実働時間を合計したら1140時間(上記のAに当たる)だった場合。
・Bの計算を行うと、184日÷7×40時間=1051.4時間
・Cの割増賃金の時間数は、1140時間−1051.4時間=88.6時間となります。 |
6 育児等を行う者等に対する配慮
育児を行う者、高齢者等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別
の配慮を必要とする者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるよう配慮しなければならないこととされております。
7 就業規則で定める事項
始業・終業の時刻、休憩時間や休日は就業規則に必ず記載しなければならない事項となっておりますので、労使協定により1年単位の変形労働時間制を採用することとした場合は、対象期間中の各日の始業・終業の時刻等を就業規則に定めると共に、常時10人以上の労働者を雇用している事業場については所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
〔就業規則の規定例〕
第○条(労働時間及び休憩時間)
1 |
労使協定により、毎年○月○日を起算日とする1年単位の変形労働時間制を実施し、1週間の所定労働時間は、1年間を平均して1週40時間以内とする。 |
2 |
始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げまたは繰り下げることがある。
始業時間 8時30分
終業時間 17時30分
休憩時間 12時00分から13時00分まで
15時00分から15時15分まで
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第○条(休 日)
1 |
社員の休日は、次のとおりとします。ただし、1年単位の変形労働時間制を適用する社員の休日は、別に定める年間カレンダーによるものとする。 |
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- 日曜日
- 国民の祝日及び国民の休日
- 年末・年始 12月○日から1月○日まで
- その他会社が指定する日
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2 |
業務の都合により会社が必要と認める場合は、予め前項の休日を他の日と振替えることがある。 |
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