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 第33回 ホンダインスパイアの新型3.5ℓエンジン可変シリンダーシステム
 ホンダのインスパイアは、スポーティな走りと洗練されたスタイルの上級セダンです。このほどフルモデルチェンジされ、5代目となりました(写真1)。新型車は、さらにスポーティな走りと上質さを高め、基本性能を大幅に進化させています。
 

写真1.ホンダインスパイアはスポーティな走りと洗練されたスタイルの上級セダンとして開発された。


 なかでも新開発のV6 3.5ℓiーVTECエンジンは、走行状況にあわせて6気筒、4気筒、3気筒での燃焼に切り換える進化型可変シリンダーシステム(VCM=Variable Cylinder Management)の採用と徹底的な吸排気効率や燃焼効率の向上で、国産3.5ℓクラスセダンで唯一の無鉛レギュラーガソリン仕様でありながら、最高出力206kW(280PS)/6200rpm、最大トルク342Nm(34.9㎏m)/5000rpmの高出力・高トルクを達成したうえに実用燃費も大幅に向上させています(写真2)。

写真2.インスパイアに搭載されたV6 3.5ℓi-VTEC可変シリンダーシステム搭載エンジンのカットモデル。


 ●可変シリンダーシステムの概要

 この車のi-VTECは、VTEC機構で稼動するシリンダーを切り換える可変シリンダーシステムを採用しています。これは運転状況に応じて6気筒運転、4気筒運転および3気筒運転に切り換えることで燃費の向上および排出ガスレベルの低減を図っています(図1)。なお気筒休止時に発生する特有のエンジン振動については、アクティブコントロールエンジンマウント(ACM)によって低減しています(図2)。なお従来のACM制御は、可変シリンダーによる片バンク休止時のみでしたが、新型車ではエンジン回転全域で制御しています。

 各バンクに装着されたVTEC機構で、4気筒運転時は№3シリンダー(リアバンク)および№4シリンダー(フロントバンク)、3気筒運転時は№1、2、3シリンダー(リアバンク)のインテークおよびエキゾーストバルブの開閉を停止しています(図3)。バルブの開閉を行わないことで、バルブを開閉するための駆動抵抗(バルブスプリングの圧縮抵抗)や吸入空気抵抗(ポンピングロス)がなくなり、エンジンの回転抵抗を少なくすることができます。
(これより下の図は、クリックすると大きくなります。)

図1.インスパイアに搭載された可変シリンダーシステムi-VTECエンジンの走行状況ごとの気筒休止概念図。


図2.可変シリンダーシステムi-VTECエンジンの気筒休止シリンダーと稼動シリンダー。


図3.気筒休止運転時などの特有のエンジン振動を抑制するアクティブコントロールエンジンマウント。コンピュータからの信号でエンジン振動を予測し、そのエンジン発生振動の逆位相のACM駆動電流をACMソレノイドに流して振動を発生させ、これによりエンジンの発生振動を打ち消す。

 ●可変シリンダーシステムの構成

 フロントバンクは、①VTECスプールSOL.V.A、②VTECスプールバルブ、③VTEC油圧スイッチ、④カムシャフト、⑤ロッカーアーム、⑥ロッカーシャフト、⑦ロストモーションスプリングから構成されています(図4)。それぞれの働きは、次のとおりです。

 ①コンピュータ(PGM-FI ECU)からの信号によってソレノイドをON/OFFし、フロントバンクVTECスプールバルブへの油路を切り換えます。②VTECスプールSOL.V.Aからの油圧で内部の油路を切り換えて№4シリンダーのインテークおよびエキゾーストロッカーアーム内部のVTEC切換えピストンにかかる油圧を切り換えます。③スプールバルブ後の油路に設けられ、フロントバンクのVTEC系統の油圧を監視しています。④№4シリンダーのインテークおよびエキゾーストカムには、通常リフト用と気筒休止用のカム山が設けられています。⑤№4シリンダーのインテークおよびエキゾーストロッカーアームは、バルブリフト/休止を切り換える分割構造となっていてVTEC切換えピストンが内蔵されています。⑥二重管構造になっていてスプールバルブからの油圧はロッカーシャフトを通ってロッカーアーム内部のVTEC切換えピストンに作用します。⑦4気筒運転時の№4シリンダー休止時にバルブに作用しないロッカーアームのばたつきを抑えます。

 リアバンクも、同様の構成となっていますが、シリンダー休止時は3シリンダーとも休止します。①のVTECスプールSOL.V.A/Bと2個ソレノイドバルブが設けられている点がフロントバンクと異なります(図5)。各部品の役割は次のとおりです。

 ①コンピュータからの信号でソレノイドをON/OFFしてリアバンクVTECスプールバルブへの油路を切り換えます。②VTECスプールSOL.V.A/Bからの油圧で内部の油路を切り換えて№1、2、3シリンダーのインテークおよびエキゾーストロッカーアーム内部のVTEC切換えピストンにかかる油圧を切り換えます。③スプールバルブ後の油路に設けられてリアバンクのVTEC系統の油圧を監視しています。④通常リフト用と気筒休止用のカム山が設けられています。⑤バルブリフト/休止を切り換える分割構造になっていてVTEC切換えピストンが内蔵されています。⑥四重管構造になっていてスプールバルブからの油圧はロッカーシャフトを通ってロッカーアーム内部のVTEC切換えピストンに作用します。⑦シリンダー休止時、バルブに作用しないロッカーアームのばたつきを抑えます。

図4.フロントバンクシリンダーヘッドの構成。



図5.リアバンクシリンダーヘッドの構成。


 ●可変シリンダーシステムの各部品の構造

 ①VTECカムシャフト:フロントバンクのカムシャフトの№4シリンダー、リアバンクのカムシャフトの各シリンダーのカムは、通常リフト用と気筒休止用(リフトなし)のカム山が設けられています(図6)。

 ②VTECロッカーアーム:インテーク側ロッカーアームはプライマリおよびセカンダリ、エキゾースト側ロッカーアームはプライマリA/BおよびセカンダリA/Bに分かれています。それぞれのプライマリロッカーアームの内側にはVTEC切換えピストン、セカンダリロッカーアームの内側にはリターンスプリングが組み込まれています(図7)。

 ③ロッカーシャフト:フロントバンクのロッカーシャフトは、№4シリンダー稼動時油路と休止時油路の二重管構造になっています。リアバンクのロッカーシャフトは№1、2シリンダー稼動時油路と休止時油路、№3シリンダー稼動時油路と休止時油路の四重管(2内管)構造となっています(図8)。

 ④VTECスプールSOL.V.A/VTECスプールバルブ(フロントバンク):これらは一体構造で、フロントバンクのシリンダーヘッドに取り付けられています。そしてスプールバルブボディはロッカーシャフトホルダーの役割をしています(図9)。働きは前述したとおりです。

 ⑤VTECスプールSOL.V.A、SOL.V.B/VTECスプールバルブ(リアバンク):これらも一体構造で、リアバンクのシリンダーヘッドに取り付けられています(図10)。そしてスプールバルブボディはロッカーシャフトホルダーの役割をしているのも同様です。働きは前述したとおりです。

図6.VTECカムシャフトの構造。カムの構成に注目。



図7.VTECロッカーアームの構造。VTEC切換えピストンを内蔵している。


図8.VTECロッカーシャフトの構造。二重管および四重管を用いて油圧をコントロールしている。


図9.フロントバンク用VTECスプールSOL.V.Aとスプールバルブ。


図10.リアバンク用VTECスプールSOL.V.A/Bとスプールバルブ。



 ●可変シリンダーシステムの作動

 ①6気筒運転:オイルポンプからの油圧はフロントおよびリアバンクVTECスプールバルブを経由してフロントバンク(№4シリンダー)、リアバンク(№1、2、3シリンダー)ロッカーアーム内に流れ、VTEC切換えピストンのロッカーアーム連結側に作用します。この油圧とリターンスプリングの反力によってプライマリロッカーアームとセカンダリロッカーアームは連結して、すべてのロッカーアームは通常リフト用カムで駆動され6気筒運転となります(図11)。

 ②4気筒運転:オイルポンプからの油圧はフロントおよびリアバンクVTECスプールバルブを経由してフロントバンク(№4シリンダー)、リアバンク(№1、2、3シリンダー)ロッカーアーム内に流れ、№1シリンダーおよび№2シリンダーではVTEC切換えピストンのロッカーアーム連結側に、№3シリンダーおよび№4シリンダーでは切換えピストンのロッカーアーム非連結側に作用します。これにより№1、2シリンダーでは油圧とリターンスプリングの反力でプライマリロッカーアームとセカンダリロッカーアームは連結してインテークおよびエキゾーストロッカーアームは通常リフト用カムで駆動されます。また№3、4シリンダーでは油圧によってプライマリロッカーアームとセカンダリロッカーアームの連結が外れてインテークおよびエキゾーストロッカーアームは休止カムで駆動されるのでバルブは休止します。その結果、№3シリンダーおよび№4シリンダーは気筒休止状態となるので№1、2、5、6シリンダーの4気筒運転となります(図12)。

 ③3気筒運転:オイルポンプからの油圧はフロントおよびリアバンクVTECスプールバルブを経由してフロントバンク(№4シリンダー)、リアバンク(№1、2、3シリンダー)ロッカーアームに流れ、№4シリンダーではVTEC切換えピストンのロッカーアーム連結側に、リアバンクではVTEC切換えピストンのロッカーアーム非連結側に作用します。これによって№4シリンダーでは油圧とリターンスプリングの反力でプライマリロッカーアームとセカンダリロッカーアームは連結し、インテークおよびエキゾーストロッカーアームは通常リフト用カムで駆動されます。またリアバンク(№1、2、3シリンダー)では、油圧でプライマリロッカーアームとセカンダリロッカーアームの連結が外れ、インテークおよびエキゾーストロッカーアームは休止カムで駆動されるのでバルブは休止します。その結果、リアバンクの各シリンダーは気筒休止状態になるためフロントバンク(№4、5、6シリンダー)のみの3気筒運転となります(図13)。

図11.6気筒運転時の油圧経路と各部の作動。


図12.4気筒運転時の油圧経路と各部の作動。


図13.3気筒運転時の油圧経路と各部の作動。




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