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 第76回 トヨタアクアのHVシステム

スタイリッシュなボディのなかに、ゆとりの室内空間を持ち、さらには爽快な加速感や軽快なフットワークを楽しむことができるコンパクトカークラスのハイブリッドカーがトヨタ自動車のアクア(写真1)です。

写真1 2020年のコンパクトカーをテーマに開発されたハイブリッド車トヨタアクア。



 ハイブリッドシステムの小型・軽量・高効率化など、同社の17年間にわたる量産ハイブリッドカー開発の知恵と技術を結集して、世界トップのJC08モード走行燃費35.4㎞/ℓ(10・15モード走行燃費は40.0㎞/ℓ)を実現しています。ちなみに1.8ℓエンジンを搭載したプリウスLではJC08モード走行燃費は32.6㎞/ℓです。
 システム構成部品を図1に示します。システム全体としては、最高出力73kW(100PS)です。内訳は、エンジンの最高出力が54kW(74PS)/
4800rpmで、最大トルクが111Nm(11.3㎏m)/3600~4400rpmで、モーターの最高出力が45kW(61PS)で、最大トルクが169Nm(17.2㎏m)となっています。

 

 ●エンジンの特徴

 初代プリウスに搭載されていた1.5ℓの1NZ-FXEエンジンと基本的には同じエンジンを搭載しています(写真2)。
 約70%の部品を新設計して低燃費とハイパワーを両立させています。燃焼効率のよいハイブリッド専用の1.5ℓアトキンソンサイクルエンジンで、吸排気系を高効率化したうえで、クールドEGR(排出ガス再循環)システムや電動ウォータポンプなど、最新の技術を各部に採用して小型軽量化を実現し、高性能化も図っています。

1. クールドEGRシステム:このシステムを採用することでエンジン圧縮比を向上させるとともにバルブタイミングを最適化して燃費を向上させています(図2、写真3)。またクーラーのチューブサイズやフィン形状の最適設計によって熱交換の高効率化と小型化を両立させています。またEGR領域を拡大することによって、プリウスなみの最小燃料消費率を達成しています。
2. 触媒一体型エキゾーストマニホールド:低熱容量、高耐熱性の触媒一体型エキゾーストマニホールドを採用しています(図3)。触媒の位置を排気ポートに近づけることで、触媒の暖機性を向上し、制御を最適化することによって、プリウス比67%の触媒暖機時間低減を実現、ちょい乗り時の燃費を改善しています。
3. 電動ウォータポンプ:エンジンの回転数や負荷などから判断して冷却水量を効率よく制御することで、エンジンを最適に冷却する電動ウォータポンプを採用(写真4)。補機類をすべて電動化し、補機ベルトを失くしてフリクションロスを低減して燃費を向上させています。またウォータポンプ本体をシリンダブロック側面にコンパクトに配置することでエンジンの小型化にも成功しています。
4. 小型インテークマニホールド:クラストップレベルの小型化と圧力損失の低減によって燃費を向上させ、EGR通路の形状に工夫を施し、各気筒へのEGR配分を均等化しながらEGR通路を一体化して、さらなる省スペース化を実現しました(写真5)。
5. 細部までこだわった燃費制御:ちょい乗り時の燃費を向上させるために冷間時のエンジン点火時期を最適化し、エンジン暖機中の燃費向上と排出ガスの低減を両立。また排気熱回収器をメーカーオプション設定し、排気熱をエンジン暖機に利用することで実用燃費を向上させています。
6. 新設計エンジンマウント:マウントの搭載位置を、できるだけ低く抑えることでスペースを有効利用し、小型軽量化による低燃費への貢献はもちろん、低重心化を実現して操縦性・走行安定性にも寄与しています。
 

 ●パワーコントロールユニット(PCU)の特徴

  細部にわたって技術改良を加え、インバータ・コンバータともに小型軽量化しています。PCU全体でもプリウスに比べて体積で12%、重量で1.1㎏減の小型軽量化を実現しています(写真6)。

1. インバータの小型軽量化:モーター駆動時にはハイブリッドバッテリからの直流電流をモーターを駆動する交流電流に変換し、エネルギー回生時にはモーターで発電した交流電流をハイブリッドバッテリを充電するために直流電流に変換します。走行状態にあわせて発電と充電を最適に制御し、電流の変換や発電と充電の制御を効率化するとともに各素子を効率よく配置して小型軽量化を実現しています。
2. DC-DCコンバータ:ハイブリッドバッテリが発生させる高電圧を補機類電源の12V系に降圧するのがDC-DCコンバータで、ハンダ接合寿命や振動耐久性などの信頼性を確保したうえで新規開発して小型軽量化を実現しています。  
3. 昇圧コンバータ:ハイブリッドバッテリが発生させる電圧を定格電圧の144Vから最大520Vに昇圧します。プリウス以上の昇圧比を実現し、損失も最小限に抑えています。
4. IGBT冷却方法に直接冷却構造を採用:インバータやコンバータで制御を司るパワー半導体のIGBT(スイッチング素子)を冷却するために直接冷却構造の冷却器を新規開発し、プリウスに比べて内部圧損の低減とさらなる軽量化を実現しています。
 
 

 ●ハイブリッドトランスアクスルの特徴

 新設計のモーターを採用し、ギアトレーンを最適設計することで小型軽量化を実現しています(写真7、図4)。

1. 小型軽量化:新設計モーターの採用やギアトレーン、軸受け部最適設計などでプリウスと比べ全長21㎜、重量8㎏を低減し、ハイブリッドトランスアクスル全体を小型軽量化しています。
2. 専用設計のモーターリダクション機構(図5):駆動用モーターとセットで機能するモーターリダクション機構を採用し、専用設計とすることでプリウスに比べて軸間距離をより短くして小型軽量化を実現しています。
3. 新設計モーターの採用:駆動用、発電用ともに新設計のモーターを採用。巻線を角線コイルにすることで電気抵抗を低減し、規則正しい配線ができるようになり、小型軽量化を実現しています。
4. 機能を集約して小型化したギアトレーン:動力伝達・動力分割・モーターリダクション・パーキングの4機能を持つギアトレーンですが、機能を集約することで部品数の軽減と小型軽量化を実現。リダクションプラネタリ用リングギアと動力分割プラネタリ用リングギアを1個のギアに一体化し、ギア数の少ないシンプルな構造としています。またギアの歯面仕上げの研磨加工(カウンタドライブギアおよびカウンタドリブンギア)・内歯シェービング加工(リダクションプラネタリ用リングギア)を採用してCAE(コンピュータエイデッドエンジニアリング)を駆使した低振動ギアトレーン構造とあわせて静粛性にもこだわっています。

 ●ハイブリッドバッテリの特徴

  十分な電圧を確保しながらセル数を削減してバッテリ本体を小型軽量化しています(写真8、図6)。

1. バッテリパックの小型化:1モジュールあたりのセル数を6個にして20個のモジュールでブロック化(120セル)しています。バスバーモジュールによって直列に接続するなど、より効率的な配置としてバッテリパック全体を大幅にコンパクト化しています。168セル構成のプリウスに比べてサイズを約29%削減しています。
2. 回復充電の最適化:温度や充電履歴など、バッテリの状態にあわせて回復充電を最適に制御するシステムを新開発し、充電のためのエンジン作動時間をプリウスに比べ約3分の1にまで短縮させています。これにより渋滞時などの燃費改善にも大きく貢献しています。
3. バッテリの最適設計:ジャンクションボックスとバッテリ監視ユニットをエンドプレート両側に配置することで車両左右方向の幅を大幅に低減しています。アッパーカバーの締結を前後締めとすることで車両前後方向の幅の低減。バッテリパックのコンパクト化とあわせてプリウスに比べて重量で11㎏、体積で20%低減しています。
4. 高い冷却性能:冷却風導入口をシートアンダーカバー部に設置することで冷却風量の確保と冷却風温度の低減を実現(図7)。バッテリパック左下側から吸い込んだ冷却風は左下側から右上側へとモジュール間を流れ、効果的に熱交換を行います。また排気ダクトをデッキサイドにとることでリアシートへの熱の影響を極力抑えています。
5. リアシート下への搭載:バッテリの小型化はもちろん、クーリングブロアからアンダーケース、アッパーカバーに至るまで全体に最適にレイアウトすることでリアシートの居住性やシート性能を損なうことなくリアシートしたにコンパクトに収納しています(図8)。バッテリの搭載を感じさせないゆとりと快適さを実現したうえ、補機用12Vバッテリもあわせて搭載することで、広いラゲッジルームも確保しています。  
 以上小型ハイブリッドカー「アクア」のシステムの構成について紹介した。作動その他はプリウス同様でEV(電気自動車)として走れる距離も車両重量の軽さなどからバッテリが小さくても同様の距離を確保しています。


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