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           お客様が「先生」と慕ってくる
 宮城県古川市に工場を構える「モリノス自動車(森の巣クラブ)」は、平成15年3月に独立開業した、生まれたての工場で社員は社長、事務員(社長の奥様)、サービスマンの3名で経営している認証工場である。
独立当時は、財布に1万2千円しかなく、子供4人をどうやって養っていくかぎりぎりの生活をして、しのいだと事も無げに話す森社長。信用保証協会へ日参し高度化資金をやっとの思いで借りて、整備に必要な機械設備を整えてのスタートであった。少しお金がたまると、リフトの屋根の波板を買い、また少したまると鉄骨を買いというようにして、少しは作業ができる建屋を立て、作業ができるようになったという。
そんな苦労をしながら独立後1年目の平成16年の年間の売上高が4千2百万円という実績を残している。因みに本年は、営業利益は前年比20%アップで推移しているから驚きだ。サービスマンが一人増え、単価競争の中での実績だけに脅威的な伸びである。さらに驚いたことに、その営業利益の10%が営業圏内(古川市内)、残り90%は営業圏外(仙台市、県外)から得ている。
その裏づけがお客さま軒数の伸びである。独立時の創業当時は、30人のお客さまが今では実に280人に膨れ上がっている。9倍強にもなる。しかも増えたお客さまの9割が「口コミ」によるとのこと。正に理想を絵に描いた経営である。しかも、お客さまが、社長を社長として接しているのではなく「先生」として接しているのである。つまり、お客さまが整備の「エキスパート」として認めている証だ。
インタビュー中に来店されたお客様から聞いたことだが、『ここの工場でオイル交換をしただけなのに、その後のクルマの走りがまるで違った。感動して鳥肌が立ちました』と云うではありませんか。信じられますか?オイル交換だけで、お客さまに「感動」を与えることができますか?モリノス自動車では、これが当たり前のこととして、お客さまがお客さまを創ってくれているのだ。
だから、経営者ではなく、技術のエキスパートとして「先生」になれるのだ。森社長もお客さまに諭すような口調で語りかけたり説明するものだからなお更先生の雰囲気が増してくる。私も、長年この業界で数多くの整備工場を見てきたが、モリノス自動車さんの特徴ある経営を見たのは初めてで、目から鱗が落ちっぱなしの状態であった。


        オイル交換ではなくオイルメンテナンスです
 お世辞にも「きれい」といえるような工場でないのに、ナゼこれだけお客さまが寄ってくるのか、しかも遠くは「横浜」や「静岡」から来店されオイルメンテナンスを受けて喜んで帰る。
『当社では、オイル交換はしません。オイルメンテナンスをしています。』と、社長はいう。同社では、エンジンオイルをエンジンから抜き取って、単純に新油を入れることをしない。エンジンオイルを抜く場合でも、一滴残らず抜く。エンジンオイルレベルゲージ口から独自に開発した工具(現在はオイルメーカの特許となっている)でエンジンに圧力をかけて、完全に抜く。そのために、ドレーンコックからオイルが飛び散らないように手作りの筒状もので被って作業を進める。新油を入れる場合も、オイルジョッキから直接入れることはしないで、オイルジョッキからメモリつきのビーカーに移し、きちんと入れる量を測ってからこぼさない様にじょうごを使って慎重に入れる。
こうした作業風景を見たお客さまは、今まで経験したことがないので、質問をしてくる。そこで、社長のお出ましである。持論の「機能低下、故障の3要因」の説明や「エンジンオイルの効能」などを分かりやすく説明するのである。これだけで「感動」ものだ。そして、交換後に必ずお客さまに「体感」をいただくために直ぐに試乗してもらう。ここで二度目の「感動」だ。前述のお客さまのように「鳥肌が立つ」となれば感動の上を行く「衝撃」になる。
オイル交換の作業時間は、30分から1時間を要する。取材時にジムニーのエンジンオイルメンテナンスが終わって、受領した全額が1万2千円であった。エンジンオイル交換だけで1万円の上を行く金額を当たり前のように受領する姿は何とも不思議な感覚だ。
社長は『整備工場でお客さまに喜ばれてお金になる「オイル交換」を、来店してくれたら無料のサービス品として扱っているのは、技術を放棄していることと同じだと』嘆く。
因みに、同社で用意しているエンジンオイルの種類は実に「19種類」もある。それでも足りないので後4種類ほど増やしたいと計画中だ。普通の整備工場だと「ガソリン用」「ディーゼル用」の2種類、多くてもガソリン用2種類の合計3種類が一般的だ。だからお客さまに「感動」や「衝撃」を与えることができないのだと社長は指摘する。車が変わればエンジンもまちまち、乗り方や普段の維持の内容も違う、走行距離も違うのだから、2種類や3種類で対応できない。この19種類の中に、メーカー純正オイルは一つもないことが特徴で、これも社長がオイルを研究した結果なのだ。
これだけの種類を置いているので、ドラム缶での在庫はなく、ペール缶か4リッタ缶で在庫している。工場内にあるペール缶には全てビニール袋でカバーをして、ホコリや汚れをシャットアウトしているほどの気の使いようだ。
これだけ見ても「こだわり」を感じる。社長は、『うちはプロではない、エキスパートだと、プロは幾らでもいるし、プロほど信頼されない時代では』と分析してみせる。だから、『当社はプロではなく、エキスパートとして腕を磨くのだ。オイルメンテナンスで、お客さまに「満足・感動・衝撃」を与えることをモットウにしている』と社長は胸を張る。













           当社はクレームが「0」です
 オイルメンテナンスをどうやって売るのかと聞いたら、社長は「うちでは売り込みはしない」ときっぱり。クルマの状態を見て症状を言い当てる、こうしたことを行えばその症状は解消しますがいかがされますか、とお客さまに軽く投げかける。つまり、健康状態を取り戻すためのメンテナンスを提案するのだ。
社長の目からすると、今の一般的な整備では「病気ではないけど健康でもない」という状態を維持しているだけ。だから素人ができるようなことを、お金を取ってやっているので、特徴がなく、技術的差別化ができないから「値引き」でごまかす。その結果、効果がないなどのクレームが寄せられたり、別なところがおかしくなったといった苦情が出てくるが、同社では、クレームが「0」とのこと。
指摘した症状が改善され、それ以上の効果を体感できれば、苦情どころか感謝されるようになる。新規のお客さまの場合は、メンテナンスの効果が体感できなければお金を頂戴しないそうだ。部品を使った場合は、標準料金の半額しかいただかないとのこと、正に自信のなせることである。
お客さまに「変化」を体感させれば、額は問題ないと云う。むしろお客さまがどのようなことをすればよいかを尋ねてくる。次はこれとこれ、それが済んだらこれとこれ、金額はこれだけかかると云うと、お客さまは、お金がたまるとメンテナンスを受けにやってくるそうだ。
一般的に、高額の商品やサービスは富裕層だけが購入するというが、そんなことはなく、どの所得層でも「こだわり」を持った方が一定割合で必ずいる、当社はそうしたお客層をターゲットにしている。
また、お客さまにクルマの状態がどうなっているか、今後どのような整備をするとよりよいカーライフができるかをアドバイスすると、その客さまは「整備にこだわりを持ったお客さま」になってくれる。

          当社が行っていることは特殊なのでは
     ありません
整備作業で「交換と洗浄」が一番難しい、と森社長は云う。よく話を聞くと、一般に行われている「交換」や「洗浄」の定義と、森社長が行っている定義はまるで違うことが分かる。
例えば、交換だが、単に古いモノを新しいモノに入れ替えることが交換ではなく、それはあくまでも「作業」だという。交換とは、今まで以上に良くすること(健康以上にすること)が交換という。同社が行うプラグ交換は、プラグコードを抜いたら、その部分をエアーブローし、プラグを少し緩め、またエアーブロー後に、プラグを取り外す。次に、エンジン側のネジ山を通電性が良くなるように掃除をしてから新しいプラグを装着する。その際も、電極の向きを考えながら締め込むそうだ。時間も手間もかけて健康以上にする。
洗浄も難しいという。汚れているからといって簡単に洗ってしまうサービスマンがいるが、まるで分かっていない。汚れ方や汚れの状態、あるいはがたつきがあるかないかを確認した後に、洗浄作業に入る。汚れの状態等を見ることで故障原因が特定できるのだそうだ。
冷却水で、リザーバータンク内の汚れ(沈殿物)を見ればエンジンの状態が推定できると云う。白い沈殿物、黒い沈殿物、赤い沈殿物で整備方法がそれぞれ違うのに、それを無視して?画一的な整備しかしていない。
つまり、森社長の云う「交換」や「洗浄」というのは、単純な作業のことを指しているのではなく、車の状態をじっくりと確認して、その上で正しい診断と対策を行うことなのだ。平均的なサービスマンは、その点の技能不足のため素人ができる程度のことしか行っていない。
その社長も、直ぐに今のような整備ができたわけではなく、訓練に訓練を重ね、なおかつ基礎をしっかりと学習した結果だという。
今では、音を聞いただけで誰のクルマか分かると云う。これも訓練の賜物だそうだ。オシロスコープと聴診器を使って、音とエンジンの調子を見比べて音を聞き分ける、次にオシロスコープを使わずに、音だけでエンジンの状態を聞き分けられるように訓練をしたそうだ。
いずれにしても、基礎をしっかりと身につけることが全ての基本になる。その意味で機能低下、故障の3要因として森社長が体系化した「磨耗」「腐食」「疲労」の原因と重要管理箇所を徹底してマスターすることが必要ではないだろうか。また、メンテナンスで重要なことは.イル▲丱奪謄蝓次充電系統エンジン冷却液ぅ織ぅ筺サスペンションゼ崑痢部品等の錆び、汚れを森社長は指摘する。
これからが、整備サービス業の本領発揮の時代だと社長は分析する。その本業が物と物を交換するだけの作業としての技術に終わったり、素人ができるような整備をしていたのでは、時代に取り残されてしまうことになる。
整備工場の売り物は何といっても「技術」である。その技術を、「早い」「安い」というハード的な方向ではなく、クルマ本来の機能を「回復させる」「機能を引き出す」というソフト的(ノウハウ)な方向として本当の意味での「本業回帰」で、新車ディーラーや第三勢力との「差異化」が必要ではないだろうか。
『私は本業が「釣り」で、趣味が「カメラ」、ボランティアとして「カウンセリング」、生活の糧を得るため整備工場を経営し、整備技術は「ライフワーク」です』と笑って見せるが、これだけ技術を極めるのは並大抵ではない。時には「変人」呼ばわりされたこともあったと聞く。道を究めるというのは、信念と情熱がなければできないことだ。




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