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益子氏退任、三菱自のかじ取りに不安


益子氏退任、三菱自のかじ取りに不安

三菱自動車 で16年間、経営トップの座にあった 益子修氏 が8月7日付で取締役会長と代表執行役を退任した。益子氏に健康不安説は無かったものの、「治療に専念したい」と、健康上の理由で本人が申し出たという。三菱自は今期、3600億円の最終赤字となる見通しで、7月27日に 新中期経営計画「スモール・バット・ビューティフル」 を発表したばかり。計画の策定を終えたタイミングではあるが、益子氏の不在は今後の経営の不安材料になりそうだ。

三菱自が益子氏の退任を発表したのは8月7日の午前中だ。 メディアは一斉にこのニュースを報じた。益子氏は 三菱商事出身で、 ダイムラークライスラー (当時)に 支援を打ち切られた三菱自を立て直す役割を帯び、2004年に海外事業担当の常務取締役として送り込まれた。05年に社長に就任すると、軽自動車の電気自動車(EV)「 アイ・ミーブ 」を発売し、他社に先駆けて電動化推進の方向を打ち出した。商社時代の経験を活かし、インドネシアに新工場を立ち上げるなど東南アジアを強化。その一方でオランダ生産会社、米国生産からの撤退などリストラも断行し、強力なリーダーシップを発揮してきた。

優先株の処理が完了した14年には社長を退いたものの、16年の燃費不正問題で復帰。旧知の カルロス・ゴーン 日産自動車社長 (当時)に掛け合い、日産の出資を仰いで傘下に入る提携策をとりまとめた。

益子氏は2000年代の再三にわたるリコール問題によって信頼を失った三菱自の再建を一手に担ってきたといっても過言ではない。その最後の大仕事が三菱自をルノー日産アライアンスの一員にしたことだ。しかし、アライアンスは微妙なパワーバランスの上に成り立っている。アライアンスの中で三菱自が生き残っていくためには、独立した企業として健全経営し、自立していかねばならない。益子氏が特別顧問として残るとはいえ、経営トップから降りることで、経営のけん引力が弱まるのではないかとの不安がある。

三菱自の経営は急速に悪化している。19年度は最終損益が258億円の赤字となり、20年度は3600億円にまで膨らむ見通しだ。売上台数(出荷)はコロナ禍の影響もあって、19年度比38.0%減の83万2千台と100万台を大きく割り込む。国内は9.8%減の23万8千台と1割の減少にとどまるが、海外が44.9%減の59万4千台にまで縮む。台数が大幅に減る一方、拡大路線に伴って膨らんだ固定費負担によって赤字が拡大する。

新中計では、状況を改善するため、事業の選択と集中を進め、22年度に営業利益500億円(売上高営業利益率2.3%)を目指す。日産の出資を受けた直後に策定した前中計では、台数成長を求めるゴーン氏に応じる形で拡大路線に舵を切ったものの、台数、売上高、営業利益目標ともに未達に終わった。特に営業利益は目標の10分の1にも届かない惨憺たる結果だった。

新中計では子会社の車体メーカー、パジェロ製造(岐阜県坂祝町)を21年上期に閉鎖することを決め、「 パジェロ 」の生産を輸出向けについても終了する。欧州市場への新規商品の投入は終了し、事実上撤退する。

日本では販売網の再編も行う。直営店では不採算店の閉鎖、統廃合を実施するほか、独立系ディーラーについても有力ディーラーとのパートナーシップを強化するとした。競争原理を導入した販売奨励金システムやマージン体系への見直しも行う。

これらの事業のリストラや間接労務費15%削減によって、固定費を全体で20%削減する。

一方で、今後はこれまでの東南アジアに加え、アフリカや南米を重点市場に位置付ける。国内では シェアリング サブスクリプション(定額利用) を強化する方針だ。商品面では、プラグインハイブリッド車(PHEV)を軸とした環境対応車によってブランド力の向上を図るとしている。20年度には「 エクリプスクロス 」のPHEVを、 21年度には「アウトランダー」の全面改良および中国向け電気自動車を、22年度には「 アウトランダーPHEV 」を全面改良する。また、その後は日産との共同開発による軽自動車の新型EVを発売する計画だ。

 海外事業の立て直しで重要な役割を果たすとみられるのが三菱商事だ。 商事とは東南アジアでの生産・販売事業で協力している。 同地域での三菱車のプレゼンスの高さは、商事との長年の協力によるものだ。 この成功体験をアフリカ・南アジアに広げ、第2、第3の柱を育てていくとしている。南米ではペルーとチリで東南アジア向け製品を拡販するほか、ピックアップトラックの鉱山向けフリート販売を強化する。商事のグローバルな拠点網と自動車事業の強さはゴーン氏も評価していたもので、それが三菱自への出資にもつながった。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、自動車メーカーの業績はどこも厳しい。とりわけ、ゴーン氏の下で拡大路線を突き進んだ日産は今、そのツケを払わされている状態だ。今期はその事業構造改革のための費用も織り込み、最終損益が6300億円の赤字となる見通しで、日産を連結するルノーの1〜6月決算は約9000億円の赤字と過去最悪となった。加藤隆雄取締役・代表執行役CEOをはじめとする三菱自の経営陣は、益子氏不在の中で自力で経営を軌道に乗せていかなければならない。




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