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膨張する中国製EVが広げる波紋 中国製電気自動車(EV)の膨張が、世界の自動車業界に波紋を広げている。中国では市場の2割がEVとなったが、販売競争も激化しており、 輸出が急増。欧州委員会は安い中国製EVが市場をゆがめているとして調査を開始すると発表した。 EVをめぐっては、欧州がエンジン車の規制を緩める方向に動き始めている。政府主導で進めてきた各国のEV政策。その先行きは? 欧州委のフォンデアライエン委員長は9月、中国製EVについて、中国政府の補助金が市場をゆがめている可能性があるとして調査を行うと発表した。欧州自動車工業会(ACEA)によると、2022年の欧州EV販売台数に占める中国車のシェアは4.0%と、3年前の21年の0.4%から急激に増加している。中国製EVの急増に、欧州自動車産業が危機感を強めたことが背景にあるとみられている。 メルセデス・ベンツ やフォルクスワーゲン(VW)などの欧州メーカーは、2015年に発覚したVWのディーゼル排ガス不正を機に、自らEV化に舵を切った。欧州委も「脱炭素化」を旗印に、35年までのエンジン車禁止という厳しい政策を打ち出してきた。ところが、急速に力を付けた安価な中国製EVが欧州市場に流入。慌てた欧州が、にわかに保護主義的な対応に出た格好だ。 実際に中国からの自動車輸出は大幅に増加している。2023年は上期に日本を抜き、初めて世界一になった。年間でも世界最大の輸出国になることが確実視されている。多くはEVで、中国国内でさばき切れない分を、輸出に振り向けているとみられている。 中国での新興EVメーカー台頭の余波は、海外メーカーの中国合弁事業にも影響を及ぼしている。フォード・モーターは鳴り物入りのEV「マスタング マッハE」を中国市場に投入したものの、販売が振るわず、中国事業を商用車に絞るといった戦略見直しを図っている。日本メーカーも同様だ。三菱自動車は中国での販売不振から、広州汽車との合弁工場の稼働を止めており、中国事業からそのものから撤退する方針を固めた。 中国に合弁事業を持つ日本メーカーは、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、三菱自の5社。三菱自以外は継続の意志を示しているが、過当競争によって中国事業の収益は各社、悪化している。地場の新興勢はITの先端技術をどんどん取り入れ、エンターテインメント系のサービスも充実させるなど、単にEVというだけではない商品の魅力を向上させており、日本メーカーが追い付くのは簡単ではない状況だ。 中国事業を維持するために当面、考えられるのは輸出の拡大だ。 ホンダは中国で生産する「オデッセイ」の日本への輸出を9月から始めた。 最上級ミニバンとして今冬の発売を予定している。 日産は、工場の稼働率維持を目的に、中国からの輸出も検討することを検討すると内田誠社長が表明した。 これまで各国政府の主導で行われてきたEV化の動きは、一部に揺り戻しも表れてきている。英国のスナク首相は9月、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する時期を、従来の30年から35年に先送りすると表明した。インフレに苦しむ国民や産業界の負担軽減のためという。 欧州では、今春、欧州委がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)燃料の使用を条件に、35年以降もエンジン車の販売を認める方針に転換している。脱炭素を錦の御旗にEV化をけん引してきた欧州の政府当局だが、ここへきて、現実的な落としどころを探り始めたとも言える。 英国は、ガソリン車への規制を緩める一方で、24年から自動車メーカーにEVなどゼロエミッション車(ZEV)の販売を義務化するとの方針を打ち出した。ZEV比率を30年に80%、35年に100%にするという。ガソリン車の規制を緩める一方、来年からのEV販売義務付けという、ちぐはぐな政策を打ち出した背景には、前政権の政策に沿ってEV化に舵を切ってきたメーカーと、ハイブリッド車などを残したいトヨタ自動車などのメーカーのせめぎ合いがあるとの見方がある。 中国のコロナ後の自動車需要の戻りは緩やかだ。23年上期の新車販売台数は、前年同期比9.8%増(1323万9000台)だったが、牽引しているの、前述のように、前年同期比75.7%もの増加となった輸出(中国の新車販売台数はメーカー出荷台数のため、輸出分が含まれている)だ。08年のリーマンショックのときのように、世界に先駆けて需要が回復した力強さは、今の中国市場にはない。EVに対する自動車取得税の減免措置も段階的に縮小する見通しで、EVによる中国の産業振興は転換点を迎えたとの見方もある。 中国のみならず、テスラに追いつけ、追い越せとばかり、雨後の筍のように急増したEVメーカーだが、結局、収益を出せているのは、テスラと中国・比亜迪(BYD)のみと言われる。地球温暖化対策という大義名分のもと、各国・地域政府の主導で行われてきたEVシフトは、早くもペースダウンを迫られている。 |
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