自動車メーカー各社の今年度の業績が大幅に悪化する見通しだ。09年3月期決算に合わせて各社が公表した通期業績見通しは10社中7社が最終赤字に転落する。黒字を確保するメーカーも大幅減益を余儀なくされることになった。特にトヨタ自動車の落ち込みが激しく、為替の円高や北米依存型の成長戦略の脆さが浮き彫りになった。景気の底はいまだに見えず、来年度は各社がさらに厳しい経営を強いられることになりそうだ。
上場自動車メーカー10社は、1月下旬から2月上旬にかけ相次いで09年3月期第3四半期(4−12月期)の決算を発表した。昨秋からの自動車販売の急減で三菱自動車、富士重工業、日野自動車が最終赤字に転落したほか、トヨタ、日産自動車、ホンダなど各社が大幅な減益となった。期中の為替レートが1ドル=96円と前年同期に比べ17円の円高、ユーロに対しては1ユーロ=127円と37円の円高で推移したことから、為替のマイナス影響も拡大した。もっとも影響が大きかったのは、米国発のサブプライムローン問題に端を発した金融不安とそれに続く世界的な景気後退で、世界中で自動車の需要が大幅に落ち込んだことだ。
通期業績見通しはさらに内容が悪化する。営業損益は10社中5社、最終損益は同7社が赤字に転落する。10社合計の営業損失は4160億円、最終損失は6320億円に上る。
最終損益が黒字に踏みとどまるのはホンダ、スズキ、ダイハツ工業の3社。ホンダはアジアでの二輪車事業が収益を下支えしている。スズキは欧州やインドでの販売減が打撃となっているが、北米依存が低いことや軽自動車が堅調に推移。ダイハツはトヨタ車の受託生産が激減しているものの国内の軽自動車中心で海外比率が低いことが救いとなっている。3社の最終損益はホンダが前年度比86.7%減の800億円、スズキが同72.6%減の220億円、ダイハツが同39.9%減の210億円となる。
100年に1度と言われる経済危機で、最も大きな影響を被っているのは、北米依存度の高いメーカーだ。米ビッグスリーのみならず、米国ではトヨタ・日産・ホンダの3社の販売も大幅に減少している。特に大型のピックアップトラックやSUV(スポーツユーティリティビークル)といった利益幅の大きな車種の販売低迷が痛手となっている。これまで円安を追い風に利益を生み出してきた輸出も急速な円高ドル安により採算が大幅に悪化している。
特に落ち込み幅が大きいのがトヨタだ。トヨタの昨年度の業績は、日本を除く全世界で販売が増加し、売上高が26兆2892億円、営業利益が2兆2703億円、最終利益が1兆7178億円と過去最高を更新した。これに対し今期は売上高が前年度比20%減の21兆円、営業損益は4500億円の赤字、最終損益は3500億円の赤字に転落する。トヨタの最終赤字は、労働争議に揺れた1950年以来、59年ぶりとなる。下半期(10−3月)の営業赤字が1兆円を超え、通期の営業損益は前期から2兆7千億円も悪化する。最終損益も前期から2兆円以上の悪化となる。
2008年は生産・販売ともに世界一になり、最強とも言われたトヨタ。世界中で事業を拡大したことが裏目に出た格好だ。ただ、トヨタの業績がこれだけ急速に悪化するのは市場の変動だけが理由ではない。過去10年間の世界展開で、多額の設備投資を行ってきたことで固定費が膨らみ、損益分岐点が上昇していたという理由が背景にある。また米国の市場低迷で、これまで利益の源泉だった高額車種の売れ行きが落ち込んだことも主因。
【トヨタ自動車の設備投資、原価償却費、研究費開発費3月期通期見通し】
トヨタの世界戦略についていったデンソーやアイシン精機などグループの部品メーカーもトヨタと同じ収益構造になっており、デンソーやアイシンなどが連結決算開示以来、初の最終赤字となる見通しだ。
トヨタは2月6日の第3四半期決算発表時、来期の利益確保策として、固定費を全体の10%にあたる5000億円削減する計画を示した。新規の工場建設計画や能力増強計画を延期し設備投資も今期の3割減となる1兆円以下に削減する。日産も今期の最終損益が2650億円と9期ぶりの最終赤字に転落する見通しで、固定費削減のため、国内では正社員4000人を含む1万2000人、全世界で2万人を削減する計画を発表した。
需要回復の鍵は、危機の発端となった米国の金融機能がいつ正常化するのかにかかっている。日産のカルロス・ゴーン社長が09年度の世界需要を前年度比11%減の5500万台になるとの見通しを示したように、世界的な自動車需要の減少は来年度も続くと見られる。足元の販売も予想を下回る状況が続いており、各社が減産に次ぐ減産で対応している状況だ。突然訪れた危機にどう対処するかに自動車メーカー各社の意識は集中しており、ここ1〜2年が正念場になりそうだ。 |