2009年はホンダが「インサイト」、トヨタ自動車が新型「プリウス」を発売し、国内ではもっぱらハイブリッド車(HV)が主役の年だった。エコカー減税やエコカー補助金でHVがより買いやすくなったこともブームに拍車をかけた。今年は日産自動車が電気自動車(EV)「リーフ」を12月に発売する。EVはCO2(二酸化炭素)がゼロで環境性能面ではHVを凌駕する。EVの需要は広がるのか。
EVに関心が集まっているのは、地球温暖化問題やエネルギーセキュリティを背景に各国の政府がEV導入に積極的だからだ。国内は電気自動車に対する政府の購入補助制度があるほか、自治体でも神奈川県などが購入補助金を出している。導入初期は電池のコストが高く、車両価格は三菱自動車の「i‐MiEV」(アイミーブ)の場合で同じ車格の軽より約200万円高い。だが政府の補助金をもらえばユーザーの負担額はアイミーブの場合284万円、日産のリーフは299万円となり、自治体の補助も加えれば一般ユーザーも買えない価格ではなくなる。
ガソリン代が一切かからないこともEVのメリットだ。同じ距離を走る場合の電気代はガソリン代の8分の1程度で済む。家庭で充電できれば、わざわざガソリンスタンドに給油に行かずに済むことも便利だ。
だがEVにはガソリン車に比べ航続距離が短いという決定的な弱点がある。電池を多く積めば航続距離は伸びるが、その分、電池の搭載スペースが必要なほか、車体が重くなりエネルギー消費効率が悪くなる。充電にも時間がかかる。EVはいくら急速充電器を使っても、ガソリンのように数分で満タンにできるなどということはない。
リーフもアイミーブも航続距離は160辧癖胴颪梁定モード)程度。EVの特性でもあるがエアコンを入れると途端に航続距離が短くなる。日産や三菱の言い分は、日常的に100劼200劼眩る人は多くはないというものだ。確かに通勤や買い物など日常生活の足に車を使うだけなら、何百キロもの航続距離は不要だろう。しかし、車が一家に一台、それで遠出もしたいという場合はこの航続距離は心もとない。
日産は国内で2000カ所に普通充電器を配備し、充電設備のある場所や航続可能距離の地図表示など専用ITシステムでサポートするが、これも、そもそも航続距離が十分なら必要のないものだ。万が一の電池切れに備えレッカーサービスなども用意される。日産は「ゼロエミッションで世界のリーダーになる」(カルロス・ゴーン社長)という目標を掲げており、絶対に失敗は許されないというわけだ。
三菱は日産に先んじて2009年にEVの販売を開始し、10年4月からは一般への販売を開始した。だが日産のゴーン社長は「日産が世界初のEV量産メーカー」と言ってはばからない。それは日本に加え、2012年からは米英ポルトガル、仏(ルノー)で合計50万台の電池生産能力を持つからだ。とはいえ、需要の中身は各国政府や都市からの補助金をベースにしたものであり、一般的な需要がどこまで盛り上がってくるかは全く分からない。
日本メーカーの多くはこれからも世界需要の大半は内燃機関が占めるし、先進国ではハイブリッド車(HV)がこれから普及すると見ている。さらにHVの次は、プラグインハイブリッド車(PHV)の時代になると見ておりEVの時代はまだ先だ。トヨタやホンダは米カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)規制に対応するため、ゼロエミッションであるEVを2012年に同州などで投入する。ただ、両社ともEVの用途は近距離コミューターに限られるとの見方をしている。EVは確かに次世代環境技術として期待されている。また、スマートグリッド(次世代送電網)構想では蓄電機能としてEVが位置づけられている。将来への期待が高いEVではあるが、価格や航続距離、充電速度などの問題が解決されない限り一般のガソリン車のように普及する時代は当面、先のようだ。
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