今夏の電力不足に対応するための休日シフトが自動車業界で7月から始まった。電力需要が多い木曜と金曜を休日にし、土曜と日曜を稼働日にする試みだ。自動車業界と同様に休日シフトを実施している企業もあり、計画停電回避に一定の効果を見せているようだ。しかし、関係業界など周囲への影響も大きく、今年の冬や来年夏も続けるかは検討が必要なようだ。
自動車業界ではトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車、マツダ、富士重工業、スズキ、ダイハツ工業、いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックス、ヤマハ発動機の13社が日本自動車工業会(自工会)での合意に沿って休日シフトを行っている。工場だけでなく本社の間接部門や開発センターなどを含む全社が休日を変更し、電力ピークの削減に貢献しようというものだ。東京電力管内では電力使用制限令が発令される前の6月29日に電力使用率が午後2時台に4570万キロワットと供給能力の93%を超え、震災後最大になった。しかし7月に入ってからの使用率は90%を下回っており、大口需要家に対する電力使用制限令が効果を出していると見られる。
自動車業界ではメーカーの休日シフトに合わせて、日本自動車部品工業会加盟の部品メーカーのほか、トヨタ車体や関東自動車工業、セントラル自動車、日産車体などの車体メーカーも足並みを揃えて休日を変更し、自動車産業全体が土日稼働に移行している。業界全体が全国で一斉に休日シフトを行ったのは、産業界では自動車業界だけだ。ただ、官公庁のほか、大半の企業では通常の土日のカレンダーで動いている。このためメーカーの一部は、間接部門や営業部門の一部では、交代で木金も稼働している。製造や開発部門は比較的、きっちりと休めるのに対し、外部での会議や取引先のある部署では休みが取れないという事態も発生している。さらに自動車業界以外とも取り引きのある下請け部品メーカーでは、取引先の大手部品メーカーの稼働に合わせるため土日も休めない。休日シフトは節電効果が大きい半面、従業員や関係者にも大きな負担になっている。
自動車メーカー、特に電力使用制限令が発令された東電管内と東北電力管内のメーカーや部品メーカーの事業所では、休日シフトに加え、月曜から水曜の平日の稼働日にも、ピーク時間帯の使用電力を昨年実績から15%引き下げることが義務付けられている。これに対応するため、ホンダでは埼玉製作所(埼玉県狭山市)のシフトを変更して、昼間の操業の一部を深夜に移す深夜操業を始めた。日産自動車では昼勤と夜勤の操業時間帯をそれぞれ早朝と深夜にずらす操業時間シフトを行っている。本社など間接部門でも、サマータイムの導入や照明、空調の調節で節電義務の15%削減の達成に全社を挙げて取り組んでいる。活動の成果は着実に上がっており、日産では目標の15%削減を20%程度上回る節電効果を出している。自動車業界の休日変更は木金のピーク電力引き下げに貢献しているが、操業時間の変更などで電力使用制限の目標は達成できるということになる。
震災直後に経験した計画停電は企業や市民を大混乱に陥れた。「計画停電だけは何としても避けたい」(メーカー首脳)という思いで自動車業界は節電に取り組む。今夏の土日稼働は9月末までだが、気温が低下する冬場にも節電を要請される可能性はある。また来年の夏には、全ての原子力発電所が停止しているという事態も予想され、電力需給が一段と厳しくなることも想定した対策を検討する必要に迫られる。 |