日産自動車の利益がトヨタやホンダを抜いて初めて首位に立つ見通しだ。震災やタイ洪水の影響が相対的に低かったことや、円高に対しても、トヨタやホンダに比べると抵抗力が強いことが今期の業績に反映される。逆にトヨタやホンダは、部品共通化や現地生産化、世界最適調達を推進し、収益体質を高めていくことが必要だ。
日産が2月8日に発表した2011年3月期通期業績見通しは、売上高が前年度比7.7%増の9兆4500億円、営業利益が同5.1%減の5100億円、当期純利益が同9.2%減の2900億円になる。販売台数は前年度比13.5%増の475万台の予想で、欧米アジア、中国など幅広い地域で増加を見込んでいる。
これに対してトヨタの通期見通しは、売上高が前年度比3.7%減の18兆3000億円、営業利益が同42.3%減の2700億円、当期純利益が同51.0%減の2000億円だ。売上高規模は依然として日産の2倍だが、収益で大きく差が開いた。タイ洪水の影響も販売の減少と、これに伴う原価改善の目減りで1200億円のマイナス影響になる。トヨタは東日本大震災による国内外での影響が大きかったため、特に第2四半期までの業績の落ち込みが大きい。ただ第3四半期はサプライチェーン(調達網)の復旧で生産、販売ともに回復傾向で、この傾向は第4四半期も続く見通しだ。
ホンダは、11年が主力モデル「シビック」の全面改良のタイミングだったことが災いし、トヨタや日産以上に震災の影響を受けた。さらに、タイの洪水では、アユタヤの工場が水没して操業が停止。4月の再稼働を目指しているが、需要が拡大するタイで半年間、生産が止まることによる業績への影響が大きい。1月31日の第3四半期決算では、タイの洪水影響を反映させた通期業績見通しを発表。売上高は前年度比12.2%減の7兆8500億円、営業利益は同64.9%減の2000億円、当期純利益は同59.7%減の2150億円になる。タイ洪水によるマイナス影響は1100億円だ。
メーカーにとって、最も深刻なのは急速な円高だ。11年度の通期の為替レートをトヨタは1ドル=78円、1ユーロ=109円と想定。前期に比べドルで8円、ユーロで4円の円高で、輸出車の採算性が大幅に悪化している。輸出が8割のマツダは円高により今期、大幅赤字を計上する見通しで、財務基盤強化のための資本増強を発表したほどだ。トヨタの場合、円高による今期の利益の減少分は3100億円に上る。震災からの回復は軌道に乗った半面、円高の進行が業績回復の足かせになっている。
震災やタイ洪水の影響が大きかったトヨタ、ホンダに比べ、日産は震災からの立ち直りが早かったことや、ルノーとの共同購買の進展、部品共通化により、タイの洪水の影響も比較的小さかった。為替変動による利益のマイナス影響は、第3四半期(4〜12月)で1501億円あるものの、タイ洪水による生産、販売への影響は想定より小幅に止まった。世界最適地生産と現地調達、部品共通化などの取り組みでトヨタとホンダの差が現れた格好だ。企業の収益力を示す売上高営業利益率は、日産が今期5.3%(前期は6.1%)、ホンダは2.5%(同6.4%)、トヨタは1.4%(2.5%)で、日産は0.8ポイントの悪化に止まる。だが日産は2016年度までの中期経営計画「日産パワー88」で営業利益率8%の達成を掲げており、今はその過渡期に過ぎない。12年以降は中国、北米での生産拡大や、ブラジルでの工場稼働で一気に業容を拡大し収益率を一段と高める戦略だ。
タイ洪水や震災影響は一過性で、今後、調達先の分散や部品共通化が進むことで、トヨタやホンダでもリスクに強い体質が構築できるはずだ。より深刻なのは円高だが、各社、北米向け輸出車の現地生産化などに取り組んでいる。これ以上の円高が進まない限り、来期は為替変動によるマイナス影響は縮小すると見られる。ただ、生産の海外移転はそのまま国内生産の減少につながる。また、輸出車の国内生産を続けようとすると、海外調達を増やす動きにつながり、やはり産業空洞化、開発の中核としての国内事業の維持が難しくなるという問題が浮上する。一定の国内生産規模をどう維持していくか、各社が頭を悩ませており、1ドル=85円程度への是正が必要だとの状況に変わりはない。 |