ホンダが軽自動車の生産・販売を本格的に強化し始めた。来年7月の稼働を予定している寄居新工場(埼玉県寄居町)を「フィット」シリーズを中心とした小型車の専用工場とし、これまでフィットを中心に生産してきた鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)は軽自動車を中心とした工場にしていく方針だ。同社は国内生産100万台の維持を掲げている。鈴鹿製作所で軽の内製を復活させて以降、同社の軽は大幅な販売増が続いており、ダイハツ工業やスズキも警戒している。
ホンダは9月21日に伊東孝紳社長が記者会見を行い、四輪車の世界販売台数を2016年度に11年度比で93%増の600万台、二輪車を同66%増の2500万台に拡大すると発表した。四輪車は日米欧の先進国で300万台、新興国で300万台販売すると表明。日本では輸出分を含め100万台の生産を維持するとともに「できれば100万台すべてを日本で売りたい」(伊東社長)との考えを明らかにした。「日本市場は400万台レベルまで縮小するかもしれないが、このうちの100万台をホンダで貢献したい」と、国内のシェア拡大を目指す考えだ。
来年稼働する寄居工場ではフィットやフィットベースのコンパクトSUV(スポーツユーティリティビークル)、セダン「シティ」などの小型車を生産する。新工場の稼働に伴って、狭山工場(埼玉県狭山市)では2本あるラインのうち、一部を集約し、ミニバンやSUVなど比較的大きな車を生産する。埼玉製作所は、狭山と寄居の2工場で、年間50万台を生産していく方針だ。
ホンダはリーマンショック後に進んだ円高に対応するため、輸出を一段と減らし、生産の現地化を進めている。このため国内工場は稼働率が低下しており、国内向けモデルの生産を増やして稼働率を高める必要性が生じている。軽自動車の内製化を始めたのもそのためで、ホンダの軽を全量生産していた八千代工業では生産台数の減少に対応するため、今春、希望退職を募ってリストラを実施した。 軽を鈴鹿で生産するようになってから、ホンダの軽販売は大きく伸びている。昨年発売したNシリーズの第一弾「N BOX」(エヌボックス)は、軽の車名別販売台数で今年4月から1位を獲得している。これにより12年1−8月の軽累計販売台数は前年同期にくらべ2.5倍の21万3730台となり、軽市場シェアは15.1%と前年の2倍近い伸びとなっている。11月にはセダンタイプの「N−ONE」(エヌワン)を発売する予定。同モデルを皮切りに15年までに6車種の新型軽を投入し、さらに軽の販売を拡大する見通しだ。
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの大手メーカーは、超円高が続く中、それぞれに国内生産台数の維持に腐心している。トヨタは東北を強化して年間300万台維持を標榜、日産は九州への生産シフトにより、年間100万台の生産維持を図ろうとしている。ホンダは小型車からの需要シフトで今後も安定した需要が見込まれる軽を取り込むことで、国内の生産基盤を磐石化する戦略だ。
何としても国内生産規模の維持を図りたいホンダの攻勢は、軽市場の勢力図を塗り替える可能性がある。スズキの鈴木修会長は、新型「ワゴン_R」の発表会で「スズキとダイハツで7割を占めていた市場に大手が入ってきた。今後5年でどうなるか、うかうかしていられない」と語っている。ホンダによる軽強化はメーカー各社の軽開発競争を加速させる効果もあると考えられ、燃費性能、居住性など軽の商品力向上への期待も高まる。
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