今年の国内市場は軽自動車の勢力図が大きく変わりそうだ。ダイハツ工業とスズキが圧倒的なシェアを占める軽市場でホンダが躍進し、2社の地位を揺るがす勢いでシェアを伸ばしている。高齢化や所得の減少などを背景にした需要の軽シフトはさらに続くと見られ、2013年もホンダの動きから目が離せそうにない。
エコカー補助金で需要の上乗せが期待された今年上半期。2010年9月まで実施された前回の導入時に比べると最終盤の駆け込み需要にやや盛り上がりを欠いたものの、それでも補助金終了後の販売減速を見ると一定の効果はあったようだ。1〜10月の累計販売台数は登録車が前年同期比32.4%増の293万台、軽自動車が同36.4%増の170万台。登録車はトヨタの「アクア」などハイブリッド車が好調で、2年ぶりに300万台を回復するのが確実な情勢だ。軽自動車も200万台にも届きそうな勢いだが、市場全体の伸びだけでなくシェア構造も大きく変化している。
軽はダイハツとスズキが3割ずつのシェアを取り合い、ここ数年はダイハツがシェアトップを続けている。2011年もダイハツが35.8%、スズキが31.3%とダイハツがスズキをリードした。ところが今年は1〜10月の累計でダイハツが34.3%、スズキが29.6%といずれもシェアを落としている。半面、急速にシェアを伸ばしているのがホンダだ。
ホンダの1〜10月のシェアは15.5%と前年同期の8.5%から7ポイントも上昇、10月は17.9%と前年同月の7.7%から10.2ポイントも上昇している。販売台数を牽引しているのが新シリーズの「N BOX」(エヌボックス)だ。同モデルは1月からの販売累計が18万1103台と2位のダイハツ「ミラ」の18万9888台に8785台差まで迫っており、年間で首位になる可能性もある。11月に発売した新型車「N ONE」(エヌワン)の評判も高く、ホンダのさらなる攻勢が年末にかけて続く。
ホンダが軽に力を入れる理由は明確だ。円高を背景に欧米向け輸出車の現地生産化を加速しており、軽の販売を増やさなければ国内で生産する車がなくなってしまうからだ。「フィット」「フリード」などに採用しているホンダ独自の「センタータンクレイアウト」を初めて軽にも取り入れ、広々とした室内空間を実現。CVT(無段変速機)やターボの搭載で燃費と走りを両立させ商品力を従来に比べ大幅に向上している。軽の生産をグループ企業の八千代工業への委託から自社の鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)に切り替えたことも、軽に対する取り組み方を高めている理由だ。
軽への急速なシフトにより、ホンダ系の部品メーカーでは国内事業を軽でも儲かる収益体質にしていくことが課題になりつつある。フィット、「アコード」などコンパクトクラス以上の車に比べ、軽では部品単価が低く、利益が出しにくいためだ。13〜15年までにホンダはさらに5車種の軽新型車を投入する方針で軽自動車シフトが本格化する。軽自動車の強化によりホンダは国内生産100万台を維持する方針だが、部品メーカーは大きな構造変革を迫られる。来年全面改良を迎えるフィットが軽自動車シフトによって販売ボリュームを減らすようなことがあれば、国内事業の収益はさらに厳しくなる。
東南アジア、北米など海外が順調な日本の自動車産業だが、国内需要の活性化と並んで輸出の復活がなければ、国内の技術力の維持はままならないのが現実だ。軽自動車シフトによって国内市場が単なるガラパゴス化に終わらないためにも、せめて軽で培ったコンパクト技術や低コスト化の技術を世界での競争力向上に生かしていくべきだろう。
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