3年ぶりに自民党が政権を取り返し、自動車業界では自動車取得税・重量税廃止への期待が膨らんでいる。安倍新政権が日本経済の復興を最優先課題に掲げ、日本のものづくり力の再興を推進しようとしているからだ。大きな税収減になる両税の廃止には自民党内に慎重な向きもある。夏の参院選に向けた選挙対策、消費税率引き上げへの地ならしの要素も絡む。
1月8日に都内で開催された、自動車工業4団体による恒例の新年賀詞交歓会。景気回復への期待からか、昨年よりも賑わいを見せる中でスタートした。会場をさらに盛り上げたのは、来賓として安倍晋三首相が自ら会場に足を運んだことだ。この日、安倍首相は経済3団体をはじめ、各業界団体の賀詞交歓会をはしごして回っていた。経済界への事実上の顔見せというわけだ。業界関係者によると、首相が自動車工業4団体の賀詞交歓会に出席したのは初めて。「産業界からの支持を獲得し、夏の参院選への票固めを確実にしたい意向が明らか」(自動車業界関係者)だ。
さらに会場内でどよめきをもって受け止められたのが、茂木敏光経済産業大臣による「自動車取得税、重量税の撤廃」発言だ。経産大臣の発言が、そのまま実現を約束するものではないが、茂木大臣のあまりに歯切れのいいもの言いに「あんなことを言ってしまっていいのか」と驚きの声があがったほどだ。
首相と大臣の揃い踏みの裏に、敵失により衆院選で大勝した勢いを参院選まで持続したいという意図があるのは明らかで、産業界からの支持基盤を確実なものにするため、税制措置で大判振る舞いする可能性がある。車体課税の問題が解決するとしても、それは自民党が選挙戦を有利に戦う戦略の一つと言える。
ただ、消費税率が現在の5%から8%、10%へと順次引き上げられていくなかで税率5%の取得税をそのままにしておけば、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の後、販売が大きく落ち込むことは容易に予想される。そうなれば国内の自動車産業をさらに苦境に追い込むことになる。さらに車の保有に二の足を踏ませる重量税の存続も、車離れを一層、加速させかねない。そうなれば新車需要はさらに落ち込み、国内生産の縮小と雇用の減少という悪循環につながる。
ユーザーの負担を軽減すれば、新車需要の浮揚に一定の効果があることは分かっている。2012年の新車販売台数(登録車、軽自動車)は536万9622台と、前年を27.5%上回った。11年は震災があったため前年比で正確な効果は推し測れないが、水準としてはリーマンショック前の07年(535万台)と同水準だ。日本自動車工業会(自工会)が12年3月に公表した12年の需要見通し(480万台)に対し50万台以上も上振れたことになり、エコカー補助金復活の効果が小さくない。さらに、エコカー減税による取得税・重量税の減免措置が12年4月1日(重量税は5月1日)から15年3月31日(同4月30日)まで3年間のスケジュールで実施されていることも需要を下支えしている。
新車需要は補助金や減税の有無に大きく左右されるようになっており、自工会は、本来は12年末に出すはずの13年の国内需要見通しをまだ発表していない。参考になるのはトヨタ自動車が12月26日に発表したグローバル販売・生産計画だ。このなかでトヨタは、13年のトヨタ・レクサスブランドの国内新車販売台数が前年比18%減の140万台と、12年に比べ30万台減少すると見込んでいる。国内生産も前年比11%減の310万台と前年実績に比べ39万台減少する。
《トヨタ 2013年暦年の販売、生産計画について》
単位:万台 ( )は前年比% トヨタ自動車HPより転載
トヨタの見通しを市場全体にあてはめれば、13年の登録車需要見通しは277万台と300万台を大幅に割り込む。ダイハツ工業は一部登録車を含む国内販売を前年比10%減の60万台、生産は同7%減の72万台と予想しており、登録車からの需要シフトが続く軽自動車も同じ傾向と言える。
震災復興のための所得税増税、年金保険料、健康保険料の負担増など、家計の負担は重くなる一方にある。こうした中で日本が経済成長を目指すなら、雇用拡大や内需活性化につながる税制へと改革を促すことが必要だろう。車は国民生活に密着している。取得税・重量税の廃止は、日本経済の維持・再生につながる可能性が高い。自動車産業界も需要を創出する商品を提供し続ける努力が必要だ。
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