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  人を育てる・生かすシリーズ:新規&中途採用と育成

Vol-4. 育つの?育てるの?
◆「我がまま」という解釈を変えることが必要
さあ、第4回目の「人を活かす・育てる」ではいよいよ人の育成について、佳境に入っていきたいと思います。

前回は新卒採用の事例を紹介しながら、時代の変遷と共に移り変わる学生の気質に触れ、せっかく入社してもすぐ辞めちゃったり、こちらが思案の挙句良かれと思って、決めた配属先を簡単に蹴っちゃったりで、それはやりたい放題勝手気ままとは正にこのことです。

私が新入社員の時代は有効求人倍率が過去最低の頃でしたから、江戸時代の丁稚奉公ではないかとも思わせる、それは々難行苦行の毎日でした。私たちの時代(と勝手に仲間を増やして数で勝負しますが)でも、そりゃ仕事に何も不安や不満がないとか、夢も希望もないといったことはなく、高度成長期も終わり、オイルショックが何度もやってきて先行き不安定な時代ではありましたけれど、それなりに自分の仕事や将来のキャリアプランは漠然と考えていたように思います。

時代が時代といってしまえばそれまでですが、内定を辞退するとか、入社してすぐ転職を考えるとか、人事の偉い人が面談して、さらに適性検査などもやって決定した配属先を自分に合わないから代えてくれとか、やっぱりあっちが良かったとか恐れ多くて口が裂けても言えなかったでしょうね。我慢するとか、辛抱するとか絶えることの美学がどうとかという問題ではなく、発想すらなかったと思います。

つまり、「自己主張」と「我がまま」とを履き違えている気がしてなりません。が、それを「我がまま」と一蹴するわけには行かないのが現在のリクルート事情であり、育成の基本スタンスなのです。今までの企業が持っている採用の基準や、仕事に対する姿勢を引きずっていたのでは、優秀な素材を採用することもままならないし、採用後もいとも簡単に退職届を出して転職してしまうのが現在なのです。こと、採用と育成においては「我がまま」の解釈を変えることが必要なのです。


◆情報を捨てる時代の申し子
しかしそんな時代の中でも、自分の人生設計図を早くから描き、学生の時から起業し、若くして新たな分野を切り開いていった人たちももちろんいました。ちょっと私の世代とはずれますがリクルートの江副さんなんかはその代表格ではないでしょうか。

こんなことを書き連ねていると、私もいつの間にか「今の若いやつらは本当にしょうがない」と自分のことを棚に上げて、にわか時代考証人になったつもりで批判していることに慄然とします。

彼らは、私たちが3年かけて手に入れた情報をおよそ1ヶ月くらいで入手してしまうようなスピード感覚で動いています。そもそも生まれた時から携帯電話を握りしめて育てられたような世代ですから、好むと好まざるとに係わらず、どんどん情報は入ってきます。ですから彼らにとって情報とは得るものじゃなく捨てるもんなんですね。どんどんいらないものを捨てて残ったものだけ使う。同じようにモノもあふれてますからどんどん捨てる。挙句の果ては人まで捨てるんですね。

出会いも多い代わりに別れも多いわけです。先日の日経新聞に載っていましたが、最近の中学生は平均1日100通の携帯メールをするそうです。そして常時100人くらいのメル友がいて会ったことも無い相手と通話ではなく通書をしているそうです。そして会ったこともないのに気に入らない人とは交信を絶つため、月に1回はメールアドレスを替えるそうです。まあ、昨今の電車内での彼らのメールの早打ち技を感心しながら眺めている私としては、さもありなん、と妙にこの話には納得してしまいます。

さて、そんな彼ら彼女らが会社にどっと入ってきたらいったいどうなるか。同世代の仲間と、しかもメールでしかコミュニケーションをしてこなかった環境から一気にあらゆる年代の中で直にコミュニケーションをとることを要求される。しかも価値観がまったく異なるがために意思疎通ができず、さらにそれを補うスキルもなく、右往左往しているうちに「こんなはずじゃなかった」という否定的考えが頭をもたげてきます。これも先日の日経新聞で取り上げられた事例ですが、大卒で入社した人の35%、高卒入社の実に49%が3年以内に辞めるそうです。人事担当者泣かせの世の中になったものです。

採用経費について3年ほど追跡調査をしたことがありましたが、新卒、中途にかかわらず、おおよそ一人採用するのに100万円の経費がかかっていました。裏を返せば100万円以上かけないと人は採れない。もし「良い人財」を採ろうと思ったらもっと経費がかかる。ということに他なりません。しかもこれには退職係数はかけていませんので、3年で3割辞めるとしたら単純計算でコストはさらに3割アップすることになります。


◆「育てる」ことで人財になる
「優秀な人財を採ること」「内定を辞退させないこと」「早期離職を食い止めること」は連鎖反応的につながっていき、企業の中ではそれが正の連鎖になるか負の連鎖になるかは大きな問題となってきます。

これが「職場風土」と言われているもので、実態がよくわからないだけに不気味な存在です。ある程度定着した組織においては、世間一般には異常であっても当たり前のように日常が流れていきますので、職場風土がどうとか言われてもピンときませんが、入社したての社員にとってはそれが一種の踏み絵となります。彼らは敏感に感じ取ります。それこそ瞬間的にそれを嗅ぎわけ、判断し、そして捨てます。

前回のこのコラムで私のコンサルタントをしている会社の新人が退職したお話をいたしましたが、実はこんな布石があったことが後日判明いたしました。彼らは会社説明会でトップの熱弁に感動し、「この会社なら自分の思いが実現できる」「この会社ならチャンスを与えてくれそうだ」と感じ、何回かの会社訪問でさらにその思いを募らせ、期待に夢を膨らませていた入社1ヶ月前の頃、とある地元の居酒屋で飲んでいたそうです。

たまたま隣りに座った若いサラリーマンの二人連れが会社の悪口を言っていたのを聞くともなく聞いていたら、それが自分が入社する予定の会社の人間だったそうです。こちらの身分を明かすわけにもいかず、そのまま耳に入ってくる会話は、会社、上司の悪口はまだしも、あげくの果てには「新人を追い出してやる」といった内容まで飛び出してくる始末。

前向きに捉えれば営業の世界は食うか食われるかだから、新人だってライバルだと聞こえないことはないのですが、その場の雰囲気はどうもそうではない感じで、何か夢が一度に打ち砕かれた気分だったそうです。まあそういう後ろ向きの社員も一人や二人はいてもおかしくないと自分に言い聞かせ入社したわけですが、結局その時の漠然としたもやもや感を拭いきれないままにし、それが潜在意識のどこかに潜んでいたんでしょうね。壁にぶつかる度に、「ほら、やっぱりこの会社ってこうだったでしょ」という声なき声が心に呼びかけていたはずです。

何が引き金になるかは人それぞれですが、それを作り出しているのは企業の風土です。「人を育てる」ためには「人が育つ」風土や環境をつくらなければ何の意味もありません。経営者にとって居心地の良い会社とはどんな会社でしょうか?毎期ごとに利益をあげ、自分の収入が増え、右を向けと言えば全員が右を向く社員がいる会社でしょうか?

まあ極端な表現ではありますが、多かれ少なかれそれに近いんじゃないでしょうか。会社は公器でありながら、社長の夢を実現するために存在すると公言してはばからない輩も世の中にはいらっしゃいます。それは本質として決して間違いではありませんが、方法論がずれているケースがたくさん見られます。「〜だから俺は社長だから何をやってもいい」「〜だから俺がルールだ」といった具合ですね。そこからは決して良い風土は生まれません。どんなにりっぱな研修をやっても無駄です。
医者というのは人が健康になりたいという人間が本来持っている生存欲求のパワーをアシストするだけである。という人がいます。同じ理屈でいえば、人を育てるというのは、人が本来持っている「自立への欲求」や「自我の欲求」「自己実現の欲求」をいかに助けるか。ということに他なりません。人は「自ら育つ」パワーを持っています。

そのパワーが無駄なく発揮されるように、きっかけを作り、素材を与え、ムダ芽を取り除き、添木を当てて真っ直ぐに育てる努力と風土とが相まって、企業にとって必要な人財になるのです。

ということで、次回は早くも最終回となりますが、「人の持っている能力」についてのお話をさせていただきます。


清水 薫(ビードライブ株式会社 代表)