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   【どうする労務:VOL.1】

             『遅刻した社員の残業代の扱い』
 はじめまして。これからシリーズで労働法を中心に、より良い労使関係を築くための労務について担当させていただきます。目的は「やる気の出る職場創り」です。職場で実際に起こりそうな事例等も取り上げながら、分かりやすくお伝えしていきたいと思っています。

 「労働法」という名前の法律はありません。日常的に使っている労働法とは、労働基準法・雇用保険法・労働者災害補償保険法・労働安全衛生法・最低賃金法・・・などの総称です。このシリーズでは、労務の基準である労働基準法を中心に、必要に応じて他の法律にも触れていくこととします。

 第1回目は、労働時間と残業代の関係です。


■法定労働時間と所定労働時間 〜残業代の支払〜

【ある事例】
9時始業17時終業、休憩1時間の会社に勤めるAさん。昨夜は同僚と日頃の憂さを晴らす為ついつい飲みすぎてしまい(かなりストレスが溜まっていたようです)、今朝はなかなか起きられずに1時間遅刻してしまいました。そして仕事が終わったのは18時30分。“1時間遅刻しちゃったけれど1時間以上残業したから、これでチャラになったよね。残業までして俺って偉いね〜。残業代も付くことだし、今日もパーッと行きましょうか〜!!”と、Aさんは意気揚々と飲みに行きました。
 
さてこの場合、Aさんへの残業代(時間外の割増賃金)はどの部分に対して支払わなければならないのでしょうか。遅刻した1時間分と残業した1時間分は基本的には相殺することが可能です。(注:就業規則で遅刻した場合の取扱いをどの様に定めているかで異なります。また、17時以降の就業に対して時間外の割増賃金を支払う等と規定している場合は出来ません。その場合、遅刻の賃金は就業規則の定めにより差し引きを行い、17時以降の就業に対して割増賃金を支払うことになります。)就業規則で相殺が可能だったとして、残り30分の残業はどうなるでしょうか。


労働時間には法定労働時間と所定労働時間があります。その定義は、
法定労働時間 労働基準法で定められた1週間・1日の労働時間
「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を越えて、労働させてはならない。(労働基準法32条1項)」
「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を越えて、労働させてはならない。(労働基準法32条2項)」
所定労働時間 就業規則や雇用契約で定められた労働者の労働時間です。
      同じ企業であっても雇用形態などによって異なる場合もあります。


Aさんの会社は1日の所定労働時間が7時間となっています。一方、労働基準法で定められている法定労働時間は1日8時間、1週間原則40時間です。労働基準法では割増賃金(通称、時間外手当などといいます)の支払は、法定労働時間を越えて労働した時間に対し2割5分以上5割以下の割増賃金を支払うとなっていますので、法定労働時間の8時間を越えなければ割増賃金を支払う必要は無い事になります。しかしこの場合も就業規則でどの様に定められているかが問題となります。


)…袁働時間を越えて労働した場合、時間外の割増賃金を支払う。
⊇蠶袁働時間を越えて労働した場合、時間外の割増賃金を支払う。

果たして皆さんの会社はどちらでしょうか?

,両豺腓錬源間を超えなければ割増賃金の支払は発生しません。もちろん所定労働時間は7時間ですので、30分の労働時間に対しては通常の賃金は支払わなければなりません。

△両豺腓禄蠶袁働時間(この場合は7時間)を超えた場合割増賃金を支払うといっていますので、今回の30分に対しては割増賃金を支払う事になります。

Aさんが遅刻をしなかった日に18時30分まで残業した場合はどうなるでしょうか。上記,両豺腓任垢硲源間を超えた30分に対して割増賃金を払えばいいことになります。△両豺腓1時間30分に対して割増賃金を支払う事になります。

“なんだ、労働基準法で払わないでいいとなっているなら、今まで7時間越えたら払っていたけれど、これからは8時間越えたらにしよう”と思った方がいらっしゃったら、ちょっと待ってください。

労働基準法には「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。(労働基準法1条2項)」とあります。従って、労働基準法を変更の理由には出来ません。

さて、飲みに行ったAさん、一緒に行ったBさんに残業代の事を話したら、“遅刻の分と相殺されるし、法定労働時間越えないとうちの会社は時間外の割増賃金は付かないよ”と言われて少々気落ちしています。就業規則の内容を知らなかった様ですね。法定労働時間の事もBさんから聞いたようです。そこでAさん、居酒屋の主人にこんな事を言っています。“法定労働時間は1日8時間、1週間で40時間だよ、ちゃんと残業代払っている?”(これって、絡んでいるのでしょうか?)対してご主人の答えは“いやー、うちはちっちゃい飲み屋ですからね。従業員も3人だし、44時間までかまわないらしいですよ。”Aさん“そんなことあるの???”はい。そんなことはあるのです。

週の法定労働時間は原則40時間ですが、常時10人未満の労働者(パート・アルバイトを含む)を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の事業については、1週間の法定労働時間を44時間とする特例が適用されています。ただし1日8時間の特例はありません。ちなみにこの居酒屋さんの所定労働時間は、1日7時間の週6日勤務で、週42時間だそうです。

“ふーん、いろいろあるね〜。遅刻したお陰で勉強になったよ”Aさん、それはちょっと違うでしょ・・・。明日は遅刻しないで下さいね。


天野社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士・FP 天野 由加里
milokopi@sc4.so-net.ne.jp



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