授産施設とその事業とは?
授産施設とは、障害者を対象とした代表的な社会福祉施設です。 障害を持つ方々に働く場を提供することにより、勤労の喜びや社会参加への機会を促している施設であり、大小含めると全国に1万ヶ所近く存在しています。
授産施設で行われている事業には、大きく分けると2つの種類があります。 最もよく見られるのが、箱折り作業や小物部品の組み付けといった軽作業を、外部の企業などから受託して行うものです。 もう一つは、自主製品事業と言われるもので、施設自らが商品を考案し、生産ならびに販売を行うものです。
この自主製品事業の種類としては、パンや菓子類などの加工食品の生産がよく見られ、さらには店舗を運営することによりそれらを販売している施設もあります。
授産施設における近年の社会環境の変化としては、「障害者自立支援法」が施行された影響により、これまでのように単に働く場と仕事を障害者の方々に提供するだけでなく、授産事業で多くの利益をあげて、より多くの工賃を障害者の方々に還元する必要性に迫られてきたことです。
これは障害者福祉施設といえども、授産事業の付加価値をさらに高め、顧客や市場が満足する製品・サービスを提供しなければならないことを意味します。 これまでは授産製品であるからと言う理由で、品質も大目に見られていたかもしれませんが、販売を増やして利益を上げるには、商品性の向上や販路拡大も必要となり、場合によっては民間事業者との競争にもさらされることになります。
今回は、そのような障害者福祉施設の授産事業中でも、上手な事業運営を行っている「松の実園」での取り組みを紹介します。 事業の規模としてはとても小さなものですが、他の業界においても大いに参考になるでしょう。
松の実園での授産事業
松の実園は、8名の施設職員と36名の知的障害をもつ利用者が通っている石川県にある授産施設です。(注) 同一法人内での授産事業としては、施設職員と知的障害者の方々の共同で、企業からの受託作業をはじめ、ウェスの製作、アルミ缶のリサイクル、そして食品分野の自主製品の生産などさまざまな作業を行っています。
そして近年、事業の収益を増やすために特に、食品の自主製品事業に力を入れることにしました。 これにはクッキー、ラスク、ポン菓子などの焼き菓子類、その他にも味噌、梅干しなどの加工食品があります。 その中でも、人気が高く松の実園での主力製品となっている「おからクッキー」についての取り組みを、ここでは紹介します。
成功のポイント
「おからクッキー」が人気を博している理由は、その味以外にも商品企画から生産・販売活動まで、地道な努力と工夫があるからです。
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(1)こだわりの商品性 |
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「おからクッキー」はその名が示すように、通常のクッキーの生地におからを練り込んで仕上げたオリジナル商品です。おからは豆腐を作る際に大豆を絞ってできた残りカスであり、これを地元の豆腐屋さんからいただいているので、できたてのものを非常に安いコストで入手することができています。 また主要材料の一つである卵も、地元の養鶏業者さんから仕入れており、そこでは鶏の餌も自家製のものを使っているという逸品の卵なのです。
使用している材料にはもちろん添加物などはなく、しかもすべてが手作りの作業です。 大量生産はできませんが、手作り作業であることの柔軟性を生かすことによって、少量で多品種の商品を比較的容易に実現することができます。 食材に、チョコ、紅茶、米粉、きなこ、ココアなど、さまざまな食材を加えることによって、味のバリエーションを豊富にそろえて、多くのお客様の好みにこたえているのです。 |
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(2)手作り作業での生産性アップ |
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おからクッキー作りは、2名の作業を指導する職員と、4名の障害者の方が主な作業を行っています。 クッキー作りの工程は、材料計量、おから炒り、混ぜ合わせ、練り・成形・切断、オーブン焼き、袋詰め、検品など、多くの作業工程が含まれます。
ところが障害者にとっては、その障害の程度や適性によって、担当できる作業が限られてしまったり、同じ作業でも人によって作業時間にかなりの差が生じることになります。
そこで松の実園では、一連の作業工程を細かく分けて、それぞれの障害者の方々について、現在可能な作業を明らかにし、その時間も測定して管理することにしました。 それによって、適材適所の配置を可能にし、さらに今後の作業訓練計画に反映して作業能力と生産性の向上につなげています。
また職員が知恵を出し合って、障害を方が確実に作業をできるような改善の工夫も施しました。(下図参照)
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<オーブン用トレイの改善>
障害者の方には、トレイに均一に並べる作業が困難であったが、このような格子状の用具を用いることによって、その作業を容易に確実にできるようになった。 |
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(3)限られた販売チャネルでの販売促進 |
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おからクッキーの最大の特徴は「手作りの良さ」であり、同じクッキーの名称であっても、大手の製菓会社で大量に機械生産されているものとは全く異なる商品と考えることができます。 しかも、生産して供給できる量が限られているため、販売する場所も一般のスーパーや量販店ではそぐわないのです。
実際に売上に結びつていて販売ルートとして重視しているのは、地場の食材や産物を扱っている産地直販店などです。 幸いこの手のお店は、消費者の健康志向や地産地消の流れより近年は注目されているため、おからクッキーなどの優れた授産製品の販路拡大の機会は広がってきています。
また、松の実園の法人グループでは、定期的な施設行事の開催、または地域で行われる行事に参加して、授産製品の販売機会を拡大しています。
売場がどこであっても、初めてのお客様には商品の良さを伝える必要があります。 商品パッケージだけでは伝わりにくいため、前述のおからクッキーの「こだわり」について説明したチラシも制作して、お客様のみならず売場の人にも理解してもらうようにしました。 販売現場とお客様にとっては、伝わらないものには価値がないのです。
またこの種の商品としては少し珍しい販路も開拓できています。 おからクッキーの良さが、あるアミューズメント業者さんの目に留まり、その業者さんのお客様への景品として扱われているのです。 景品は小さくて安価なものでも、一般的に入手できない希少性が求められるのからです。
景品用として、おからクッキーは通常のパッケージよりも小さくして提供しています。 この様な利用のされ方は、試供品的な意味合いも持っており、おからクッキーを初めて食べる人を自然に増やし、ファンの拡大にもつながるのです。
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<施設イベントでの販売風景>
毎年秋には「かんしゃさい」という施設イベントが行われ、いろいろな授産製品も販売されています。 |
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(注) |
松の実園は、H21年度より障害者自立支援法に定める新事業へと移行を行い、就労移行支援事業、就労継続支援事業B型、生活介護の3事業を行う多機能型事業所となりました。 |
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みなさんの事業への応用
松の実園のおからクッキーをはじめ、ほとんどの授産施設の自主製品はとても小さなビジネスですが、それが成功するためには一つの法則があります。 世の中にはおそらく同じような種類の商品であふれているでしょうが、それらと競合するのではなく、競争を回避して独自のポジショニングを築くことです。
そのためには、
崔に(顧客ターゲット)」、
◆峅燭髻幣ι米胆)」、
「どのように(販売・提供方式)」
の三つをよく考えてみましょう。
おからクッキーと大手製菓会社のクッキーを比較してみると、この三つの点がすべて異なっているのです。
あなたの好みの授産製品を捜してみませんか?
読者の皆さんには、授産施設などの障害者福祉施設の活動をほとんど知らない方も多いと思います。 皆さんのお住まいの近くにも授産施設があれば、そこで行われている事業や作られている授産製品に興味をもってみるといかがでしょう。 今回ご紹介したような「おからクッキー」のような希少性があって、あなた好みの授産製品が見つかるかもしれません。 筆者もこの授産事業のコンサルティングに携わってからは授産製品のファンになり、ちょっとしたお土産を持っていくときなどに、大いに利用させてもらっています。
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