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医療機関をとりまく経営環境の変化
 日本は世界でも最先端の医療技術を保有している国ですが、病院などの医療機関をとりまく近年の経営環境は大きく変わりつつあります。
 その一つは、膨れあがる医療費の増大です。この背景には、高齢化の進展が最大の理由としてあげられますが、国民の疾病構造が感染症などの急性疾患から、生活習慣病などの慢性疾患に移行して、長期にわたる治療が必要になってきたことがあります。 その他にも、医療の高度化により今までに治療できなかった難病に対する処置が可能になったこともあげられます。
 日本の医療の特徴は「国民皆保険」と言われ、すべての国民が健康保険に強制的に加入しているため、すべての医療行為は国により価格が決められ、診療報酬として医療機関に支払われる仕組みになっています。 この国民医療費の総額は、30数兆円にも達しており、外食産業の市場規模をも上回る非常に大きな産業規模なのです。 しかし最近では、医療保険財政の破綻が懸念されることから、医療費や過剰診療を抑制するために、医療機関に支払われる診療報酬の見直しなどがなされて、これが医療機関の収益性に影響を及ぼしています。
もう一つの変化は、医療機関を利用する患者側の意識の変化です。 患者が医療サービス利用する機会が増加してきたことに伴って、医療機関への期待や要求水準、あるいはサービスの種類や質に対しての関心がますます高まってきています。 また、医療事故を防止して安全なサービスを提供することは、すべての病院や診療所の社会的責務であることは言うまでもありません。
 このような経営環境の変化に応じて、多くの医療機関においては、患者に選ばれるための医療サービスの見直しに加え、従来からの経営のあり方を転換する必要性にも迫られているのです。

 金沢循環器病院は、北陸地方では数少ない心臓病、血管疾患、高血圧症などを専門とした病院です。 同病院の経営理念は、循環器専門病院として高度先進医療から老人医療に至るまで「患者様第一」のきめ細かい医療を行うことであり、これを実現するために、バランス・スコアカードというマネジメントの方式を取り入れました。
 同病院の組織には、医局、看護、検査、リハビリ、薬剤などの直接的な医療サービスを提供する部門に加え、医療相談、栄養、医療事務、物品管理などの医療サービスをサポートする多くの部門で成り立っています。しかし、それぞれの部門が自分たちの思いで業務を行っていたのでは、病院の理念をかなえることはできません。そこで、バランスカードという方法を用いて、年度毎に病院とそれぞれの部門で、重要な活動テーマと達成すべき目標を設けて、組織全体で足並みをそろえて理念を実現するための活動を推し進めていこうとしているのです。
 また近年では、製造業などの他の業界で行われているQCサークルによる改善活動に取り組み始めました。それぞれの職場の日常業務でかかえている様々な問題を取り上げて、当事者が協力しあいながら、合理的な方法によって問題解決を図ろうとするものです。

バランス・スコアカード(BSC)による病院マネジメント
 バランス・スコアカード(BSC)とは、情報化社会に適した新しい業績評価の方法として米国で考案されたものですが、同様のやり方は日本のTQM(総合品質マネジメント)の中でも行われており、世界中の先進的な企業が活用しているといえます。
 医療業界においても、安定的な成長を続けて社会に認められる存在になるためには、経営環境の変化や社会のニーズを的確に読み取り、それに見合った顧客(患者)サービスの提供や業務内容の見直しが必要です。そのために、自らが変革を続けていかなければなりません。
 BSCで行うべきことを簡単に言うと、次のようなPDCAのサイクルを回すことになります。

(1) 病院の「あるべき姿」を明確にする
(2) あるべき姿を実現するための「新しい活動」を決定する
(3) 全員でそれらの活動の意義を共有して実行する
(4) 定期的に成果を確認して活動を見直す

 では、金沢循環器病院でのBSC概要を見てみましょう。下図は同病院の経営を樹木の絵で例えたものです。そこには「あるべき姿」を実現するために7つのカテゴリーが描かれています。経営を継続するには「〆睫垣果」という「果実」が必須です。その果実を得るには「枝葉」が必要ですが、「葉」が「患者様満足度」、「枝」が「C楼茲醗緡貼昌者に対する病院の認知度」に相当します。そして、これらの枝葉を支えているのは「幹」であり、これらが「ず農菽式緡鼎瞭各による高い専門性」、および「ザ般咳娠弔旅舁化」です。そして樹を一番下で支えている「根っこ」の部分は人(職員)に関わることであり、「ζく環境と意欲」、および「Э雄倏塾蓮廚箸覆辰討い泙后

   


 同病院のBSCでは、この7つのカテゴリーにおいて、それぞれ何をすべきかを考えて文書によって表しています。年度の始めに、経営トップによって「病院全体のBSC」で重点活動が提示されます。それをブレークダウンして各部門においても、「部門別のBSC」が作成されます。それぞれの重点活動には、達成目標、実行スケジュール、担当分担などを明確にしています。それぞれの活動を関係者全員で実行することによって、あるべき姿へ向かうことをめざしています。
 そして半年後の期中と1年後の期末には、活動の状況と成果の点検・評価を行い、各部門代表者が参加して報告会が行われます。そこでは、良かった点はさらに活動の継続や水平展開につなげ、また悪かった点は活動の修正や別のアクションを考えることになります。

 同病院ではBSCを導入して4年になります。当初の準備段階から各部門の代表者が集まり、病院のおかれている経営環境の変化の動向、および当院や自部門の強み・弱みなどを分析することにより、自分たちにとっての優先課題を常に認識しながら仕事をする思考が備わるようになりました。そして、これらのBSCの活動に参加した人々の努力によって、それぞれの部門でふさわしいBSCが作成されるようになりました。

医療現場におけるQCサークル活動
 QC(Quality Control)とは、品質管理のことであり、買い手の要求に合った品質の製品・サービスを作り出すための手段です。病院をはじめとして多くの職場では、これまで業務を行うにあたり「KKD(経験、感、度胸)」に基づいて判断を行ってきた傾向にありまが、すべてをKKDに頼るのではなく、データや理論に基づいた「事実」による判断や問題解決が必要となっています。
 QCサークルとは、第一線の職場で働く人々が、日常の業務の中での問題に対して管理・改善を行う小グループのことです。この小グループは、QCの考え方や手法などを使って創造性を発揮しながら、改善活動を自主的に運営します。これまで日本では、製造業の現場を中心にQCサークルによる改善活動が活発に行われてきた結果、世界一流の品質の製品・サービスを生み出すことが可能になりました。
QCによる科学的な問題解決の道筋は「QCストーリー」と呼ばれ、以下に示すようなステップでQCサークルの改善活動が行われます。

 医療の現場においてもQCサークルによる改善活動は非常に注目されています。金沢循環器病院では、一昨年からQCサークル活動を始めましたが、それぞれの職場でたくさんのサークルが形成され、成果を上げています。

 この「医療業界の経営改善シリーズ」では、QCサークル活動での具体的な改善事例を紹介してゆく予定です。次号よりどうぞお楽しみに!


  国際マネジネント診断協会・アイエル経営診断事務所  
代表  板 賀 伸 行
経営コンサルタント(中小企業診断士)
ISO/QMS 主任審査員

過去に大手自動車会社において海外各国の自動車開発・生産プロジェクトを担当。その後、コンサルティング会社等を経てアイエル経営診断事務所を設立、中小企業の経営支援を開始。国や地域の中小企業支援センターのアドバイザーも務める。
経営資源の少ない小規模事業者のビジョン実現をサポートできる今の仕事に生き甲斐を感じています!
趣味はアウトドア系なら何でも関心があり、毎年新しいチャレンジ(冒険?)をしています!

 

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